山梨県

間ノ岳

間ノ岳(あいのだけ)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

白根三山の真ん中、北岳と農鳥岳に挟まれて立つ標高3,190mの広い頂。奥穂高岳と並んで日本第3位の高さを持ちながら、単独峰として登られることはほとんどない。間ノ岳とは、縦走の途上に立つ山である。

間ノ岳という山

間ノ岳は山梨県南アルプス市と静岡県静岡市の境に立つ、標高3,190mの山である。南アルプスの主峰である北岳(3,193m)と、その南に続く農鳥岳(3,026m)の間に位置することから「あいのだけ」と呼ばれ、白根(しらね)三山の中央峰として深田久弥の日本百名山に選ばれている。

標高に関しては、2014年の国土地理院による精密測量で従来の3,189mから3,190mに改められ、奥穂高岳と並ぶ日本第3位の高峰に位置づけられた(1位富士山3,776m、2位北岳3,193m)。それでも一般的な知名度は北岳・奥穂高岳に比べて控えめで、登山者にとっては「縦走路の途中で踏む山」として記憶されることが多い。実は北岳から間ノ岳、間ノ岳から農鳥岳まで、稜線はずっと標高3,000m以上を保ち続けている――日本でこれほど長く3,000m級の稜線を歩ける場所は、白根三山と北アルプス槍穂連峰しかない。

縦走でしか踏めない山

間ノ岳には間ノ岳だけを目指す登山口がない。北側は北岳とつながる稜線、南側は農鳥岳とつながる稜線、西側は仙塩尾根を経て仙丈ヶ岳方面、東側は急峻な大井川源流。どの方角からも単独で間ノ岳を踏むのは現実的でなく、白根三山の縦走の一区間として歩くのが唯一の現実的な選び方である。

白根三山縦走の標準形は、広河原(ひろがわら)から北岳に登り、北岳山荘に泊まって翌日に間ノ岳・農鳥岳を踏み、農鳥小屋経由で奈良田に下りる2泊3日の行程。これが百名山三座(北岳・間ノ岳・農鳥岳)を一度に踏むもっとも合理的なプランで、健脚なら大門沢小屋まで足を伸ばして奈良田に下る1泊2日でも可能だ。逆コースで奈良田から登り、農鳥小屋に泊まって翌朝に間ノ岳〜北岳〜広河原に下りる行程も人気がある。

もう一つ、玄人向けの選択肢が、両俣小屋経由の仙塩尾根ルートである。北沢峠から仙丈ヶ岳の南斜面を回り込み、両俣小屋から伊那荒倉岳・三峰岳を経て間ノ岳に登る。3日以上を要する長大なルートで、白根三山の縦走に飽きた経験者が二度目に選ぶ道だ。

広河原と奈良田、二つの登山口

間ノ岳の登山アクセスは、白根三山縦走の登山口である広河原と奈良田の二つになる。広河原はJR中央本線甲府駅から山梨交通バスで2時間(夜叉神峠経由・南アルプスマイカー規制区間)、または身延線下部温泉駅から早川町営バスで奈良田、奈良田から広河原までさらにバス・タクシー乗り換え。広河原はマイカー乗り入れ規制区間で、芦安駐車場または夜叉神峠駐車場で乗合タクシーまたはバスに乗り換える必要がある。

奈良田は早川町の山深い温泉地で、山梨交通バスの終点。バスを使う場合は本数が少ないため、前日入りで奈良田温泉に泊まり、翌朝の早い便で広河原に入る2泊3日のスタートが現実的だ。間ノ岳の登山口までの遠さは、白根三山が「気軽な百名山」ではない理由のひとつである。

広く穏やかな頂と、その向こうの稜線

間ノ岳の山頂は、北岳のような尖鋭な岩稜とも、槍ヶ岳のような尖塔とも違う、緩やかなドーム状の広い頂である。山頂部はハイマツとガレ場が混じり、特徴的なランドマークが乏しく、写真にすると北岳や農鳥岳の凛とした山容と比べて地味に映る。それが「印象が薄い山」と言われがちな理由だが、実際に立ってみるとこの広さこそが間ノ岳の本質である。

山頂周辺は南アルプスの主稜線上ではライチョウの生息地として知られ、夏のガス時にはハイマツ帯から親子が姿を見せることがある。高山植物相も豊富で、コマクサ、タカネビランジ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲなどが7月から8月にかけて稜線を彩る。間ノ岳の登山では、足元の小さな花を見ながら歩く時間こそが、白根三山の歩きの厚みを作っている。

装備と心構え、3,000m級縦走の現実

間ノ岳の装備は、北アルプスの槍穂と同等の本気の3,000m級縦走装備が前提となる。山頂部の気温は甲府盆地より概ね18〜20℃低く、盛夏でも明け方は氷点近くまで下がる日がある。フリース・ダウン・防風シェル・雨具上下・手袋・ニット帽――稜線の天候は北アルプス並みに変わりやすい。

間ノ岳の登山で最大の現実的リスクは、北アルプス主稜線と同じく午後の雷雨である。稜線の遮蔽物は皆無に等しく、3,000m級の高度は雷雲のすぐ下を歩いていることを意味する。気象庁の雷ナウキャストを朝必ず確認し、北岳山荘または農鳥小屋に午後1時には戻れる行程を組むのが基本だ。残雪は6月から7月上旬に注意し、特に北岳〜間ノ岳間の北側斜面は7月中旬まで雪が残る。

間ノ岳の服装で重要なのは、長期縦走を前提とした高度順応と紫外線対策だ。3,000mを超える稜線では空気が薄く、初日は意図的にペースを落とす。高所では水分蒸発が早く、1日2リットルの水を計画的に飲む。サングラスと日焼け止め、リップクリームは必需品。日帰り装備の延長で来ると、最終日に明らかにペースが落ちる。

山頂からの眺めと、白根三山という単位

間ノ岳の山頂からは、北に北岳の鋭い肩、その先に仙丈ヶ岳と甲斐駒ヶ岳。南に農鳥岳と塩見岳、その先に荒川三山・赤石岳・聖岳と続く南アルプス主稜線。東に富士山と八ヶ岳、西に中央アルプスと北アルプス。日本第3位の高峰からの360度の眺めは、北岳や奥穂高岳に劣らない。とくに朝、北岳の三角錐がモルゲンロートで赤く染まる時間帯は、間ノ岳から見るのが最も美しい。

間ノ岳の時期選びは、山小屋営業に合わせて7月中旬から9月末がメイン。8月の盆過ぎから雷の頻度が増え、9月中旬の紅葉期はナナカマドとダケカンバが鮮やかに染まる。10月初旬には初冠雪、10月中旬には山小屋閉鎖と冬山シーズンの始まりが重なる。

間ノ岳という山を単独で評価するのは、本来あまり意味がない。北岳・間ノ岳・農鳥岳という三つの3,000m峰がつくる白根三山という単位で歩いて、その真ん中で広い頂に立つ――そこに間ノ岳の正しい味わいがある。日本第3位の山が、なぜこんなにも目立たない頂を持っているのか。実際に縦走してみると、その理由は地形と気象と歴史のすべてに刻み込まれていることが分かる。

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