山梨県

鳳凰三山

鳳凰三山(ほうおうさんざん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

白い花崗岩と地蔵岳のオベリスクが鳳凰の名の由来となった南アルプスの三座。観音岳・薬師岳・地蔵岳をつなぐ白砂の稜線を歩く、一泊二日の古典縦走。

鳳凰という名の三座

鳳凰三山(または鳳凰山)は南アルプス(赤石山脈)北東部の山梨県南アルプス市・韮崎市・北杜市にまたがる山塊で、北から地蔵岳(2,764m)、観音岳(2,841m)、薬師岳(2,780m)の三座から構成される。観音岳が最高峰で、深田久弥は『日本百名山』にこの三山をまとめて「鳳凰山」の名で選定した。北の白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)、東の甲斐駒ヶ岳と対峙する位置にあり、南アルプスを北から眺める最良の展望台として古くから親しまれてきた。

「鳳凰」の名は、地蔵岳の山頂に天高く突き立つオベリスク(地蔵仏)に由来するとされる。高さ約30mの花崗岩の尖塔が空に伸びる姿が、伝説の鳥・鳳凰を思わせるという解釈が広く語り継がれている。三山全体が新生代の花崗岩からなる岩稜で、稜線は風化した白い砂礫に覆われている。南アルプスのほとんどの山が深緑の森と岩塊で構成されるなか、鳳凰三山だけが白砂の稜線という異質な景観を持つことが、この山の最大の特徴になっている。山域は南アルプス国立公園に含まれる。

鳳凰三山ルート、四つの入山口

鳳凰三山ルートは主に四本ある。最も人気が高いのは夜叉神峠ルート(夜叉神峠登山口・標高約1,380m発)で、夜叉神峠 → 杖立峠 → 苺平 → 南御室小屋 → 薬師岳と、緩やかな樹林帯と稜線を組み合わせた標準的なコース。薬師岳まで登り約7時間、観音岳まではさらに30分。一泊二日で薬師→観音→地蔵→鳳凰小屋→青木鉱泉という縦走を組むのが古典的なプランだ。

北東側のドンドコ沢ルート(青木鉱泉・標高約1,080m発)は最短コース。沢沿いに南精進ヶ滝・鳳凰ノ滝・五色ノ滝などの名瀑を巡りながら登り、鳳凰小屋(2,382m)を経て地蔵岳に至る。登り約6時間。1932年に深田久弥らが鳳凰山を登った歴史的ルートでもある。下山は南側の中道ルート(薬師岳から青木鉱泉へ下る)を組み合わせるドンドコ沢→中道の周回が南アルプスを代表する一泊二日コースとして定着している。

北側の御座石鉱泉ルート(御座石鉱泉・標高約1,070m発)は燕頭山(つばくろあたまやま)を経由して地蔵岳に至る古いルートで、登り約7時間30分。比較的静かに歩けるルートとして経験者に好まれる。これらに加えて薬師岳から青木鉱泉に下る中道ルート、夜叉神峠から南御室小屋を経由する標準ルートを組み合わせることで、縦走の組み立て方によって体験がまるで変わる山になる。

鳳凰三山アクセス、東京・名古屋からの位置

鳳凰三山アクセスは、夜叉神峠と青木鉱泉が二大入山口になる。新宿からJR中央線特急で甲府駅まで約1時間30分、駅前から山梨交通バスで芦安経由・夜叉神峠登山口まで約1時間20分。青木鉱泉へはJR韮崎駅から市営乗合タクシーまたは予約制バスで約1時間。新宿を朝5時に出れば9時には登山口に立てる首都圏アクセスの良さで、南アルプスのなかでは入山しやすい部類に入る。

マイカーは夜叉神峠登山口の駐車場(無料、約100台)または青木鉱泉駐車場(有料、約200台)が起点になる。夜叉神峠の駐車場は週末早朝5時には満車になることがあり、特に紅葉期は前夜泊または車中泊が現実的だ。広河原方面に通じる南アルプス林道のマイカー規制と異なり、夜叉神峠と青木鉱泉までは通年マイカーアクセス可能で、南アルプスの百名山のなかでは最も自由度が高い登山口の一つだ。

白砂の稜線、観音岳から見える日本

鳳凰三山の白砂の稜線は、薬師岳から観音岳までの約1.5kmで最も顕著だ。風化した花崗岩が砂礫となって稜線を覆い、晴天時は太陽光を反射して目を細めるほど明るい。南アルプス特有の深緑の森と岩塊のなかに、鳳凰三山だけ白いビーチのような稜線が現れるコントラストは、写真でも実物でも強い印象を残す。

観音岳(2,841m)の山頂は、その白砂稜線の最高点に立つ。北を見れば北岳・間ノ岳・農鳥岳の白根三山が圧倒的な質量で迫り、東には甲斐駒ヶ岳の鋭い三角錐、南には塩見岳・荒川岳・赤石岳と続く南アルプス主稜の連なり、西には中央アルプス・御嶽山・乗鞍岳、そして眼下には甲府盆地と富士山が浮かぶ。日本の3,000m峰の半数以上を一望できる位置として、観音岳は南アルプス随一の展望台として知られている。

地蔵岳のオベリスク、登るかどうか

地蔵岳の山頂部に立つオベリスクは高さ約30m、花崗岩が垂直に切り立った尖塔だ。鳳凰三山の縦走者にとって、これに登るかどうかは常に議論の対象になる。オベリスクの基部までは登山道で容易に到達できるが、頂上まで登るには手と足を使う本格的な岩登りが必要で、登攀技術と岩への慣れがある人だけに開かれた領域だ。ロープと支点なしでの単独登攀は経験者でも危険を伴う。

オベリスクの基部周辺には地蔵尊が点々と祀られている。山岳信仰の時代から地蔵岳は霊山として崇められてきた歴史を持ち、現代でも基部での参拝が定番のルーティンになっている。基部から見上げる垂直の岩塔と、その向こうに見える甲斐駒ヶ岳・北岳の組み合わせは、鳳凰三山を象徴するワンショットとして登山雑誌・写真集の表紙を飾ってきた。

鳳凰小屋、薬師岳小屋、南御室小屋

鳳凰三山の縦走を支えているのが三つの山小屋だ。鳳凰小屋(標高2,382m、地蔵岳直下)は青木鉱泉ルートと御座石鉱泉ルートの合流点に立つ歴史ある小屋で、定員約100名、7月から10月中旬まで営業。薬師岳小屋(標高2,720m)は薬師岳山頂直下、夜叉神峠側からの登山者に重宝される。南御室小屋(標高2,440m)は夜叉神峠ルートの中間地点に位置し、テント場併設の貴重な拠点だ。

縦走の組み方は人によるが、一泊二日なら夜叉神峠から南御室小屋(または薬師岳小屋)泊、二日目に薬師→観音→地蔵→鳳凰小屋経由で青木鉱泉に下る形が最も多い。鳳凰小屋に泊まり、翌朝オベリスクの基部で朝日を浴びてから縦走を始めるプランも人気が高い。いずれも山小屋の予約必須、シーズン中は前日キャンセル待ちになることも珍しくない。

鳳凰三山の装備、服装、季節

鳳凰三山の装備は、南アルプス2,800m級の縦走を一泊二日で組む前提で揃える。ミッドカット以上のトレッキングシューズ、30〜40Lのザック、化繊またはメリノの長袖、フリース、防水透湿レインジャケット、ニット帽と薄手のグローブが基本セット。白砂の稜線は強い日射の反射で日焼け被害が大きいため、サングラスと日焼け止めは夏季の必携装備に格上げされる。

鳳凰三山の服装と季節は、7月中旬から10月中旬が標準シーズン。7月下旬から8月初旬は高山植物(タカネビランジ、ハクサンシャクナゲ)の最盛期で、観音岳〜地蔵岳の稜線は花畑に変わる。10月上旬の紅葉は中腹の樹林帯で美しく、稜線からは富士山の冠雪が初めて見え始める時期と重なる。11月から6月は積雪と凍結の本格的な雪山となり、鳳凰三山の冬季登山は南アルプスの中でも技術と経験を要する領域に入る。水場は鳳凰小屋・南御室小屋・薬師岳小屋で確保できるが、稜線上には自然水源がないため、行動中の水分管理は注意が必要だ。

深田久弥が1932年(昭和7年)秋に登った時のルートは、青木鉱泉からドンドコ沢を上がって地蔵岳に登り、稜線を縦走して薬師岳から下山する形だった。深田は『日本百名山』の鳳凰山の章で、地蔵岳のオベリスク基部から見上げた瞬間に「これこそが鳳凰だ」と感じたと記している。三山のうち、深田が最も心を動かされたのは地蔵岳のオベリスクだったとされ、それが「鳳凰山」という名で三山がまとめて百名山に選定された理由でもある。

次の南アルプスへ

鳳凰三山を踏んだ次の選択肢は、南アルプスの主稜線に踏み込むことだ。北側に視野を広げれば、観音岳から見ていた甲斐駒ヶ岳(2,967m)が北沢峠から登れる。東に視野を広げれば北岳(3,193m、日本第2の高峰)が広河原から狙える。鳳凰三山で南アルプス特有の白砂と花崗岩の景観に触れたあとなら、北岳や仙丈ヶ岳の深緑のカール地形がより印象的に映るはずだ。

鳳凰三山は南アルプスの「入口の山」として位置づけられることが多い。標高は3,000mに届かず、岩稜の難度も最高クラスではない。しかし白砂の稜線、地蔵岳のオベリスク、そして南アルプス全体を見渡せる位置という三つの個性が重なる点で、他の南アルプス百名山に行く前に必ず訪れる価値がある山として、世代を越えて登山者に推奨されてきた山だ。

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