山梨県

瑞牆山

瑞牆山(みずがきやま)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

花崗岩の岩塔が林立する独特の山頂部。奥秩父の中でも瑞牆山は、岩そのものが景観の中心になる稀有な山だ。

花崗岩の岩塔が林立する、奥秩父の異形

瑞牆山は標高2,230m、山梨県北杜市の奥秩父にそびえる花崗岩の山だ。秩父多摩甲斐国立公園の核心部に位置し、金峰山と並ぶ奥秩父西部の代表峰として知られる。深田久弥は『日本百名山』で瑞牆山を取り上げ、山頂部に林立する花崗岩の岩塔群が作り出す独特の景観を特に印象的に記述した。「みずがき」は本来「瑞垣」と書き、神域を区切る垣根を意味する古い言葉で、山頂部の岩塔群がそのまま神の住まう領域を区切る垣のように見えることが山名の由来とされる。

瑞牆山が他の奥秩父の山と決定的に違うのは、山体を構成する花崗岩が長い年月の風化で削り出され、数十本の岩塔・岩壁が山頂周辺に林立する地形を持つ点だ。大ヤスリ岩、桃太郎岩、十一面岩、不動岩など名前の付いた巨大な花崗岩塔が次々と現れ、登山者は岩塔の谷間を縫って山頂を目指す。日本の2,000m級の山でこれだけ顕著な花崗岩岩塔地形を持つ例は限られており、瑞牆山は岩そのものが景観の主役になる稀有な山として位置づけられる。

瑞牆山荘から、岩塔の谷を縫って山頂へ

瑞牆山ルートはほぼ一本に集約される。瑞牆山荘(標高1,520m)を起点に、富士見平小屋・天鳥川(あまどりがわ)の渡渉・桃太郎岩・大ヤスリ岩の基部を経て山頂に至る道。標高差約710m、コースタイムで登り3時間・下り2時間半、往復5〜6時間の一日コース。日帰りピストンが容易に成立する、奥秩父の中でも歩きやすい山頂アタックになる。

ルート途中の見どころは豊富だ。富士見平小屋の手前では富士山の見える広場、不動滝への分岐、桃太郎岩(巨大な花崗岩塊が桃の形に割れて見える名物岩)、山頂直下の大ヤスリ岩(高さ約100mの垂直の岩壁)など、岩塔群の中を歩く区間が連続する。大ヤスリ岩は瑞牆山のロッククライミングのシンボル的存在で、岩登りの対象として古くから登られてきた。一般登山者はその基部を巻いて通過し、山頂直下の鎖場を経て山頂台地に出る。

標準的な計画は瑞牆山荘起点の日帰りピストン。健脚者は瑞牆山と金峰山を一泊二日で縦走する計画を組み、富士見平小屋に一泊して二日目に金峰山を踏む、あるいは金峰山小屋から下って瑞牆山も踏む、と組み合わせる。瑞牆山と金峰山のセット縦走は奥秩父の代表的な二日間ルートとして広く歩かれている。

ロッククライミングのメッカ、十一面岩と大ヤスリ岩

瑞牆山を語るうえで、ロッククライミングのフィールドとしての性格を抜きにすることはできない。山頂周辺の花崗岩岩塔群は、戦後の日本のフリークライミング・スポートクライミングの発展を支えた重要なクラックの宝庫として知られる。十一面岩、大ヤスリ岩、カンマンボロン、不動沢など、数百本のクライミングルートが山域内に拓かれている。

一般登山者がこれらの岩壁を登ることはないが、登山道を歩いていると基部や中段に取り付くクライマーの姿を頻繁に見かける。登山者とクライマーが同じ山域を共有する瑞牆山は、北アルプスの岩稜帯とはまた違う、岩そのものを目的とする山域の文化を体験できる場所でもある。瑞牆山に登るという行為は、岩塔の谷を歩くことであると同時に、日本のロッククライミング文化の中心の一つに踏み入ることでもある。

瑞牆山荘、富士見平小屋 — 山小屋の選択肢

瑞牆山周辺の山小屋は二つに集約される。瑞牆山荘は登山口の標高1,520mに立つ通年営業の山小屋で、前夜泊・後泊の拠点として機能する。建物は新しく整備が行き届いており、登山と組み合わせて一泊する登山者が多い。富士見平小屋は山頂と瑞牆山荘の中間、標高1,810mに立つ小屋で、瑞牆山と金峰山の両座への分岐点になる。瑞牆山ピストンならどちらの小屋にも泊まる必要は基本的にないが、金峰山との縦走を組むなら富士見平小屋の一泊が定番。

ピーク時の予約は数週間前から望ましい。瑞牆山は日帰り登山が標準のため、稜線上の山小屋ネットワークは奥秩父の中でも比較的シンプル。瑞牆山荘を起点として「瑞牆山だけ」「瑞牆山+金峰山」「金峰山だけ(瑞牆山荘発の長丁場)」の三つの選択肢から行程が組まれる構造になっている。

通年登山の山、季節と装備

瑞牆山の時期は、無雪期に関しては概ね4月から11月。冬季も瑞牆山荘が通年営業しているため雪山登山の対象としても歩かれるが、山頂直下の鎖場では凍結や雪が問題となり、軽アイゼンと冬装備が必須。クライマーは春先から秋まで通年利用するため、瑞牆山一帯は奥秩父では珍しく一年を通じて人の出入りがある山域だ。5月のアカヤシオ、7〜8月の夏山シーズン、10月の紅葉、11月の冬枯れと、季節ごとに異なる表情を見せる。

瑞牆山の服装と装備は、2,200m級の岩稜帯通過を前提に組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズは岩稜帯のグリップを考えるとミッドカット以上の登山靴が標準。ザックは日帰りなら20L程度で十分。山頂直下の鎖場・山頂部の岩稜ではヘルメットの携行が推奨され、雨天時は岩が滑りやすくなるため特に注意が必要。冬季の登山では軽アイゼン・厳冬期用シェル・予備の防寒着が必須となる。

瑞牆山の山頂から見る景色は、岩塔群を前景に金峰山と五丈岩を一枚に収める構図が定番。北東に金峰山、東に奥秩父の稜線、南に富士山、西に八ヶ岳・南アルプス、北に上信越国境の山々という広大な眺望が広がる。富士見平小屋に前泊して未明に山頂に登ると、夜明けの光が花崗岩岩塔群を金色に染める時間帯を稜線で過ごせる。新月期の夏の夜は天の川が岩塔群の上に流れる。

韮崎駅、瑞牆山荘 — 首都圏からのアクセス

瑞牆山のアクセスは、JR中央本線韮崎駅から茅ヶ岳・瑞牆周遊バス(山梨峡北交通)で瑞牆山荘まで約60分。マイカーの場合は瑞牆山荘の駐車場まで車で入れる。瑞牆山荘の駐車場は無料でかなり広く、登山口アクセスが容易な点が瑞牆山の人気を支える要因の一つになっている。

首都圏からは新宿駅から特急あずさで韮崎駅まで約2時間、マイカーなら中央自動車道韮崎ICまたは須玉ICから約60分。首都圏から日帰り登山が現実的に成立する2,200m級の岩山として、瑞牆山は週末登山の人気対象だ。下山後は韮崎の増富温泉、瑞牆山の麓に湧く増富ラジウム温泉などで汗を流して帰路につく。瑞牆山に登るという行為は、奥秩父の中で岩そのものが主役になる稀有な山域を歩くことであり、登山とクライミングの両方の文化に触れることでもある。

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