北海道

羅臼岳

羅臼岳(らうすだけ)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

世界自然遺産・知床の核心に立つ活火山。ヒグマ密度日本一の登山道を経て、オホーツク海と国後島を同時に見下ろす山頂へ。

知床半島の屋根、羅臼岳

羅臼岳は北海道東部、知床半島の中央部に立つ標高1,661mの活火山であり、半島の最高峰である。知床は2005年にユネスコ世界自然遺産に登録された地域で、原生の針葉樹林、ヒグマ、エゾシカ、シマフクロウ、シャチや海ワシといった大型動物が日本の他のどの土地よりも高密度で生息する。羅臼岳はその核心部に位置し、「観光地化を最小限に抑えた百名山」という性格をいまも保っている。山頂直下からは知床連山と知床岳まで続く尾根がオホーツク海と根室海峡を分ける稜線として伸び、晴れていれば北方領土の国後島の山並みまで見渡せる。

ウトロから入るか、羅臼から入るか

羅臼岳の登山口は2か所、それぞれ性格が大きく異なる。半島の西岸ウトロ側からは岩尾別ルートが最も一般的で、木下小屋(標高約230m)を起点に弥三吉水、大沢、羅臼平を経て山頂へ続く。コースタイムは登り約4時間半、下り約3時間半。北海道の百名山としては比較的標高差が小さいが、登山道は決して整備された遊歩道ではなく、根の絡む樹林帯と火山礫の斜面が組み合わさる。

東岸の羅臼側からは羅臼温泉野営場を起点とする羅臼温泉ルートがある。こちらは標高差約1,400m、登り約6時間と長く、湿原帯と急登が続くため健脚向けだ。一般登山者の多くは岩尾別ルートを往復するが、知床連山を縦走する場合は岩尾別から入り羅臼へ抜ける、あるいは硫黄山まで足を伸ばすルート取りが選ばれる。羅臼岳アクセスは、女満別空港からウトロ経由でレンタカー約3時間というのが最短のルートになる。

ヒグマと歩く山

羅臼岳の登山で他のどの百名山とも違うのは、ヒグマと登山道を共有しているという事実がほぼ常時の前提になる点だ。知床半島はヒグマ生息密度が日本最高で、半島全体で500頭以上が確認されている。岩尾別ルートでは登山中にヒグマと遭遇する事例が毎年複数報告されており、知床財団とウトロのビジターセンターは登山前のレクチャー受講と熊鈴・熊スプレーの携行を強く推奨している。

羅臼岳の装備は、標準的な夏山装備に加え、熊対策の一連が前提となる。具体的には熊鈴または笛、唐辛子成分の熊スプレー、食料を密閉できるフードキャニスター(または匂いを完全に遮断するロールトップバッグ)、ストック類などである。テント泊する場合、羅臼平にはフードロッカー(熊侵入防止の食料保管ボックス)が設置されており、食料と匂いの強い装備は必ずここに預ける。羅臼岳の服装は本州の百名山と同等で、化繊長袖、フリース中間着、防水透湿のレインウェア、手袋、帽子を組み合わせる。

羅臼岳の時期、雪が遅くまで残る山

羅臼岳の登山時期は7月上旬から9月下旬までのおよそ3か月強。北海道東部の中でも特に雪解けが遅く、7月初旬まで大沢の雪渓が登山道を覆っていることが多い。本州の感覚で6月に入山すると、大沢でアイゼンとピッケルが必要になる場面がある。

8月は最も天候が安定する一方で、知床特有の海霧が頻繁に発生し、山頂滞在中の視界が10mまで落ちることもある。9月下旬には早くも紅葉が始まり、ハイマツとダケカンバの黄葉が山腹を染める。10月に入ると初冠雪、11月には実質的な登山シーズン終了となる。冬季の羅臼岳は厳冬期登山の対象となるが、海から立ち上がる雪稜とヒグマ冬眠明けの春の鋭利さは、夏山の延長で考える範疇にない。

知床自然センター(ウトロ)と羅臼ビジターセンターは、登山前の情報収集に立ち寄っておきたい。ヒグマの目撃情報、登山道の通行状況、海霧予報まで、当日の状況に即した情報が手に入る場所はここしかない。

羅臼平から山頂、そして国後島の方角

羅臼岳ルートの中盤、羅臼平に到着すると視界が一気に開ける。ここはオホーツク海側と根室海峡側の両方を見下ろせる広い台地で、知床連山縦走の分岐点でもある。羅臼平から山頂までは約1時間、最後の岩稜帯を四足で攀じる場面がある。山頂直下は火山特有のゴツゴツした安山岩のブロックが積み重なり、両手を使う場面もあるが、岩稜登攀の技術が要るほどの難所ではない。

山頂からは、知床連山の硫黄山・知床岳が北東に延び、その向こうにオホーツク海。南東にはわずか25kmの距離で国後島が浮かぶ。日本の百名山のうちで、領土問題の現場を最も近距離から見下ろせる場所がここである。下山後はウトロや羅臼の港町で温泉と海鮮を味わうのが定型コースだが、羅臼岳に登り終えた人だけが理解する「知床という場所のスケール」は、登る前に観光船から眺めた半島とは別の重みを持って戻ってくる。次に北海道の百名山を歩くなら、同じく国立公園の核心に位置する大雪山系の旭岳、あるいは火山地形の対比として斜里岳が自然な次の選択肢になる。

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