十勝連峰、現役の活火山
十勝岳は北海道中央部、上川郡上富良野町・美瑛町と十勝郡新得町にまたがる標高2,077mの成層火山で、十勝連峰(オプタテシケ山〜美瑛岳〜十勝岳〜下ホロカメットク山)の主峰である。大雪山国立公園の南部を構成する山域で、深田久弥は日本百名山のなかでこの山を「北海道の屋根の南の見張り台」と評している。1926年5月24日に発生した大規模な水蒸気噴火・融雪型泥流災害では、上富良野町・美瑛町の集落を泥流が襲って144名が犠牲となり、これは日本の火山災害史のなかで最大規模の人的被害として記録されている。
現代でも気象庁の常時観測対象であり、1988〜1989年の噴火活動を最後に静穏期に入っているが、噴火警戒レベルは日々更新される。富良野・美瑛のラベンダー畑と青い池の風景は、十勝岳の火山活動が長期的に地形と地下水を作り続けてきた結果として存在している。「観光地としての富良野」と「活火山としての十勝岳」が同じエリアに同居しているのが、この山の最大の特徴だ。
十勝岳ルート、望岳台から山頂へ
十勝岳ルートで最も使われるのは望岳台コース(標高約930m発)で、登り約4時間、下り約3時間。標高差約1,150m、距離片道約6km。望岳台は十勝岳の噴火活動を観測するための施設も併設された駐車場・ビジターセンターで、ここから登山道が始まる。登山道は樹林帯を抜けると一気に荒涼とした火山地形に変わり、「月面のような」と形容される広大な火山砂礫の斜面が続く。
もう一本の吹上温泉コース(標高約1,000m発)は北西側の吹上温泉から登るやや遠回りのルートで、登り約4時間半。十勝岳避難小屋を経由する構成で、登山道の途中で温泉に立ち寄れる利点がある。望岳台と吹上温泉を組み合わせた周回(または車を回送する片道縦走)は、十勝岳の地形を最も総合的に体験できる構成だ。さらに、北東側からは美瑛岳を経由して十勝岳へ縦走するロングコース、北の白金温泉を起点とする登山口など、複数の選択肢がある。
十勝岳アクセスと富良野・美瑛のリズム
十勝岳アクセスは、旭川空港または新千歳空港を起点に整理できる。旭川空港からレンタカーで望岳台まで約1時間、新千歳空港からは約3時間。公共交通機関ではJR富良野線の美瑛駅から道北バス「十勝岳温泉行き」で「白金温泉」「望岳台」まで約40分(夏季・登山シーズン限定運行)。バス便は1日数本のみで、ダイヤを事前に確認しておかないと帰路で困るリスクがある。
前泊なら白金温泉、吹上温泉、十勝岳温泉、富良野市街地、美瑛町の宿が選択肢になる。白金温泉「白金観光ホテル」と吹上温泉「白銀荘」は、登山者向けの料金体系と早朝出発に対応した朝食提供がある。下山後は「青い池」(白金温泉から徒歩圏)を経由してから美瑛町・富良野市街地のラベンダー畑(夏季)に立ち寄るのが、観光と登山を組み合わせた定型コースになる。
十勝岳の装備と服装、火山ガス
十勝岳の装備は、北海道の活火山を歩く前提で組む。緯度43度・標高2,077mの稜線は、本州の同標高帯より気温が低く、夏の最盛期でも山頂気温は10℃前後、強風時の体感は5℃を切る。化繊またはメリノの長袖、フリースか化繊インサレーション中間着、防水透湿のレインジャケットとレインパンツ、薄手の手袋、ニット帽までを基本セットとする。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが必須で、火山砂礫の急斜面と山頂直下の岩塊では、ソールのグリップとアンクルサポートが下りで効いてくる。
十勝岳の服装は、火山ガスへの備えも組み込みたい。山頂直下の62-2火口・大正火口からは現在も水蒸気と硫黄ガスが立ち上り、風向きによっては登山道に流れ込む。湿らせたバンダナを口元に当てる準備を、レインウェアと並べて装備リストに入れておくのが現実的だ。十勝岳の時期は6月下旬から10月上旬まで。最盛期は7月から9月で、9月中旬から10月初旬の紅葉は日本で最も早い部類で、ナナカマドとダケカンバが「月面」の火山地形と対比される構図は他に類例がない。冬の十勝岳はバックカントリースキーの好フィールドだが、夏のハイキングの延長で考える範疇にはない。水場は登山道上にないため、最低1.5Lを担ぐ。
気象庁の十勝岳噴火警戒情報は、出発前夜と当日朝の両方で必ず確認する。レベル1(活火山であることに留意)でも、火口周辺立入規制が局地的に出ることがある。望岳台ビジターセンターには最新の規制が掲示されており、登山口で必ず確認したい。
青い池の源を歩く
美瑛町の観光名所として有名な「青い池」は、1988年の十勝岳噴火後の防災工事(堰堤)の結果として偶然形成された人造の池で、十勝岳から流れ出る美瑛川の水と、白金温泉の硫黄を含む地下水が混じり合うことで独特の青色を呈する。登山者は、青い池の水の源を実際に歩いていることになる。望岳台からの登山道は、まさにこの水の流れる地形の上を辿るルートで、青い池を観光した後に山頂に立つと、地形と水の流れの結びつきが視覚的に納得できる。
山頂直下の最後の1時間は、火山礫と岩塊の混ざった急斜面の登りで、晴れていても風が稜線を抜ける。山頂は10m四方ほどの岩塊で、北東に美瑛岳とオプタテシケ山、北西に大雪山系の主稜と旭岳、南西に夕張山地、南東に日高山脈、晴れていれば富良野盆地と十勝平野までを一望できる。下山後は白金温泉・吹上温泉・十勝岳温泉のいずれかで湯に浸かる。次に大雪山系を続けるなら、北のトムラウシ山と旭岳、南西の夕張岳が自然な選択肢になる。十勝岳に登り終えた後、富良野のラベンダー畑から再びこの山を見上げると、風景の地質的な厚みが、登る前とは別の重みで見えてくる。