北海道

利尻山

利尻山(りしりざん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

海から1,721mを一気に立ち上げる火山島。フェリーでしか辿り着けない最北の百名山に、観光ではなく登山者として向き合う一本。

海から立ち上がる山、利尻

利尻山は北海道北部、稚内の沖に浮かぶ利尻島そのものを成している標高1,721mの独立峰である。島の中央に円錐形の山体がそびえ、海岸線のどこから見ても利尻山の姿が視界に入る。地形図で見れば一目瞭然だが、海抜0mから1,721mまでをほぼ一直線で登る山は日本にこの山しかない。利尻富士とも呼ばれる端正な円錐形は、近世の和人にとっても明治以降の旅行者にとっても、北海道の最果てを象徴する風景として記憶されてきた。1974年に利尻礼文サロベツ国立公園に編入され、深田久弥の日本百名山では一座目として記されている。

フェリーから始まる利尻山アクセス

利尻山アクセスは、ほかの百名山と決定的に違う点がひとつある。本州側から登山口に直接到達する手段が存在しない。札幌・新千歳から特急と稚内行き宗谷本線で稚内まで北上し、稚内港からハートランドフェリーで鴛泊港まで1時間40分の航路を渡る。あるいは新千歳・札幌丘珠から利尻空港への直行便もあるが、夏期限定で天候欠航も多い。

登山口は島の北側、鴛泊港から徒歩で行ける北麓野営場と、西側の沓形登山口の2か所が主要なルートの起点になる。フェリー欠航が登山計画そのものを崩しうるため、利尻山の登山では予備日を最低1日確保するのが現実的だ。前夜は鴛泊や沓形の民宿に泊まり、未明から登るのが標準的なリズムである。

鴛泊と沓形、二つの利尻山ルート

利尻山ルートは事実上2本に絞られる。北からの鴛泊ルートが圧倒的に登山者が多く、コースタイムは登り約6時間、下り約4時間。北麓野営場(標高220m前後)を起点に、樹林帯を抜けて長官山(1,218m)の小ピークを越え、利尻山避難小屋を経由して山頂へ続く。整備度は高いが、九合目から山頂までの最後の300mは火山礫が崩れやすく、植生回復のためのロープと立ち入り規制が随所に設けられている。

西側の沓形ルートは鴛泊より急峻で、登り約5時間半、下り約4時間。標高差は鴛泊よりやや小さいが、五合目付近の三眺山周辺で本峰の岩稜を間近に望めるのが大きな特徴だ。ただし九合目手前の「親不知子不知」と呼ばれる崩落斜面はトラバースの足場が脆く、悪天時には沓形ルート利用そのものが推奨されないことがある。多くの登山者は鴛泊で登り、同じく鴛泊で下りる往復ルートを選んでいる。

夏でも10℃、海抜0mからの服装

利尻山の装備で勘違いしやすいのは、標高1,721mという数字の印象だ。本州の同標高帯と比べて、利尻山の山頂は緯度が約45度と高く、夏の最盛期でも山頂気温は10℃前後、強風時の体感は氷点下にも届く。海から直接立ち上がる独立峰の地形上、稜線では遮るものがなく、晴天日でも風速10m/sを超えることは珍しくない。

利尻山の服装は、麓のフェリー乗り場の感覚(夏で20℃前後)と山頂の感覚の差を前提に組む。化繊またはメリノの長袖、フリースか化繊インサレーションの中間着、ハードシェルのレインジャケットとレインパンツ、薄手の手袋とニット帽までを基本セットとして携行する。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが望ましく、九合目以降の砂礫帯ではゲイターがあると砂の侵入を防げる。利尻山の登山には水場が一切ない。北麓野営場と長官山の間に「甘露水」と呼ばれる湧水点はあるが、ここを過ぎたら山頂まで水の補給はできないため、3L前後を担ぎ上げる前提で計画する。

短い利尻山の時期、雪の利尻

利尻山の登山時期は短い。一般的に6月下旬から9月下旬までのおよそ3か月強で、これ以外の時期は登山道に残雪と凍結が混在し、無雪期装備での入山は推奨されない。最盛期は7月から8月で、この期間はフェリーの便数も増え、宿泊施設も繁忙する。9月に入ると風が強まり、稜線の気温は朝晩で5℃を下回る日も出てくる。

冬の利尻山は一般登山の対象ではない。海から立ち上がる地形ゆえに、シベリアからの北西風が直接当たり、山体は厳冬期に深い積雪と強風で覆われる。雪山技術と経験を持つパーティーが冬山として挑む対象であり、夏のハイキング装備の延長で考える山ではないと理解しておきたい。

利尻島には民宿・旅館・ゲストハウスが鴛泊と沓形に集中している。下山後は港町の温泉に立ち寄ってから、夕方のフェリーで稚内に戻るリズムが組みやすい。島の周回道路は約60km、レンタサイクルで一周することもできる。

山頂から見えるもの、見えないもの

利尻山の山頂、利尻山神社の祠が置かれた狭い岩塊からは、晴れていれば東に礼文島、南に北海道本土の宗谷岬と利尻水道、西に日本海と、わずかにロシア・サハリン南部の山影まで望むことができる。北方領土ではなく樺太の山が地平に現れるという意味で、ここは日本の登山者が立てる最も「外」を望める百名山の一座だ。一方で、利尻山は雲が湧きやすい山でもある。山頂滞在中に視界が10mまで落ちることもあり、晴天率は経験者の間で「2泊3日のうち1日見えればいい方」と語られる。

登り終えた後、フェリーで島を離れる午後の便から振り返ると、自分が朝歩いていた稜線の輪郭が海上から再び立ち上がる瞬間がある。利尻山という山の本当の姿は、登っているあいだではなく、登り終えて港に戻る船の上で見るものなのかもしれない。次に北海道の独立峰を歩くなら、同じく海から立ち上がる羊蹄山、あるいは支笏火山群の樽前山が自然な選択肢になる。

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