栃木県

男体山

男体山(なんたいさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

中禅寺湖の北岸に屹立する円錐の独立峰。二荒山神社の御神体であり、登山が「登拝」として今も神社に管理されている、稀有な山。

二荒山神社の御神体、登拝の山

男体山は標高2,486m、栃木県日光市にそびえる成層火山だ。日光国立公園の核心部に位置し、中禅寺湖の北岸に屹立する均整の取れた円錐形の山として知られる。古くは「二荒山(ふたらさん)」と呼ばれ、日光二荒山神社の御神体(ご神体)として信仰されてきた。深田久弥は『日本百名山』で男体山を信仰の山として記述し、山頂を踏むことが「登拝」という宗教的行為であった歴史を強調している。

男体山が他の山と決定的に異なるのは、登山が現在も二荒山神社の管理下にある点だ。山自体が神社の御神体であるため、登山は「登拝」として位置づけられ、登山口の二荒山神社中宮祠で入山料1,000円を納め、登拝者として登る形になっている。開山期間も神社によって明確に定められており、毎年4月25日から11月11日までの約半年間のみ登山が許可される。それ以外の期間は閉山となり、原則として登ることはできない。現代の日本の山岳で、登山がここまで明確に宗教的枠組みの中で運営されている例は男体山以外にほとんどない。

中宮祠ルート、標高差1,200mを直登する

男体山の一般登山ルートは二荒山神社中宮祠ルートの一本に集約される。中禅寺湖畔の二荒山神社中宮祠(標高1,280m)が登山口で、神社の登拝門をくぐって山頂まで標高差1,206mを一気に詰める。コースタイムで往復7〜8時間の一日コース。登山道は一合目から九合目まで石碑で区切られ、三合目までは樹林帯、四合目以上は男体山特有の溶岩礫の急登が連続する。九合目を過ぎると視界が開け、山頂までは溶岩礫の上を歩く区間になる。

もう一本のルートとして、栃木県側の志津乗越から裏男体林道を経て志津宮に至るラインがあるが、現在は林道のマイカー規制と通行止めにより一般登山者の利用は限定的になっている。実質的には中宮祠ルートの日帰りピストンが男体山登山の標準形だ。健脚者でも標高差1,200mを一日で往復する負荷は決して軽くなく、四合目以上の溶岩礫の急登が体力的な核心になる。

勝道上人の開山、782年から続く登拝の歴史

男体山の登山史は古い。奈良時代末期の782年(天応2年)、勝道上人(しょうどうしょうにん)が三度目の挑戦でようやく男体山の山頂を踏んだとされ、これが男体山初登頂の記録として神社の伝承に残る。勝道上人は山頂に祠を建て、男体山を二荒山として信仰の対象に位置づけた。男体山の登拝の歴史は1,200年以上に及び、日本の山岳信仰の中でも最も古い系譜のひとつになる。

現在も男体山の山頂には二荒山神社奥宮の祠があり、巨大な御神剣(おおだち、剣型のモニュメント)が立つ。毎年7月31日から8月7日には男体山の「登拝祭」が行われ、深夜0時に登拝門が開かれて夜間登拝が許される。提灯を手にした登拝者が深夜の登山道を行列して登る光景は、男体山の信仰登山が現代まで連続して受け継がれてきた証になっている。一般登山者にとっても、登拝の歴史を意識して登ることで、男体山という山が単なる2,500m級の独立峰ではなく、千年以上続いてきた山岳信仰の場であることが立ち上がってくる。

中禅寺湖を見下ろす山頂からの眺望

男体山の山頂は溶岩礫の平坦な台地で、二荒山神社奥宮の祠と御神剣が中心に立つ。山頂からの眺望は、真南に中禅寺湖が眼下に広がり、奥に華厳の滝の落ち口、さらに奥に関東平野が見える、男体山ならではの構図になる。北には太郎山・小真名子山・大真名子山・女峰山の日光連山、東には日光市街と帝釈山系、西には戦場ヶ原と燧ヶ岳方面が展開する。

山頂部からの中禅寺湖の俯瞰は、男体山登山最大の見どころだ。湖面の青と、湖を囲む森の緑、北岸からそそり立つ自分の山の影が一枚の絵として広がる構図は、男体山以外では得られない。男体山が中禅寺湖の北岸に独立してそびえる地形そのものが、「湖を持つ独立火山」という日本でも稀な景観を形作っている。

夏の半年間、開山と閉山

男体山の登山シーズンは毎年4月25日(開山祭)から11月11日(閉山祭)までの約半年間に限定される。これは二荒山神社が定める登拝期間で、それ以外の期間は登拝門が閉ざされ原則として登山できない。4月下旬から5月は残雪が四合目以上にまだ残ることがあり、軽アイゼンの携行が必要になる場面もある。6月から7月の梅雨は天候が不安定、8月は登山者が最も多くピーク、9月から10月は紅葉と晴天率の高さから人気が高まる。

男体山の服装と装備は、2,500m級の長時間行動を前提に組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズは溶岩礫の急登に対応するミッドカット以上の登山靴が標準。ザックは日帰りでも20L以上、行動食・水・予備の防寒着を必ず携行する。四合目以上の溶岩礫の急登は下りで膝への負担が大きく、トレッキングポールがあると下りが楽になる。夏でも山頂の朝晩は10℃を下回ることがあり、薄手のダウンか厚手のフリースを携行したい。

登拝祭期間(7月31日〜8月7日)の夜間登拝は、男体山ならではの体験として知られる。深夜0時に登拝門が開かれ、提灯やヘッドランプを手にした登拝者が暗闇の登山道を列を成して登り、山頂でご来光を迎える。一般登山者も参加できるが、夜間の登山道は気温が低く、九合目以上では風雨があれば低体温症のリスクが高まる。装備は通常の夏山以上に厚めに、ヘッドランプは必ず予備電池も含めて準備したい。

中宮祠周辺の宿泊、日帰り中心の山

男体山の山頂や登山道上には有人山小屋はない。日帰り登山が基本のため、前夜泊・後泊は中禅寺湖畔の旅館・ホテル群を使うのが定番。中禅寺湖畔には日光中禅寺金谷ホテル・湖畔の宿などの観光ホテルが充実しており、登山の前夜に湖畔で一泊して翌朝早く中宮祠から登り始める計画が組みやすい。山頂直下には避難小屋もないため、悪天候時には素早く下山する判断が重要になる。

下山後は中禅寺湖畔の中禅寺温泉・湯元温泉、日光市内の鬼怒川温泉などで汗を流して帰路につく。男体山の登山は、北アルプスや八ヶ岳のような縦走の壮大さはないが、湖と神社と火山が一つの一日の中で結びつく密度を持つ。中宮祠で登拝料を納め、登拝門をくぐり、八合目以上で溶岩礫の急登を詰め、山頂で奥宮に手を合わせる——この一連の流れが、男体山登山の標準的な体験になっている。

日光駅から中禅寺湖湖畔、いろは坂を上って

男体山のアクセスは、東武日光駅またはJR日光駅から東武バスで中禅寺湖湖畔の二荒山神社中宮祠まで約50分。途中のいろは坂は48箇所のヘアピンカーブで知られる連続急登路で、第二いろは坂の途中に明智平の展望台があり、華厳の滝と中禅寺湖を望める。マイカーの場合は中禅寺湖畔の駐車場まで車で入れる。中宮祠の駐車場は登拝期間の朝は早くから埋まるため、ピーク時は早朝の到着または前夜のうちに中禅寺湖畔に入っておくのが安全策。

首都圏からは東武鉄道で浅草駅から東武日光駅まで特急で約2時間、または北千住駅から最速約1時間50分。JRなら新宿駅から日光駅まで特急「スペーシア日光」「きぬがわ」で約2時間。マイカーなら日光宇都宮道路清滝ICから約30分。首都圏から日帰り登山が現実的に成立する2,500m級の独立峰として、男体山は週末登山の対象として根強い人気を持つ。下山後は華厳の滝・中禅寺湖の観光と組み合わせて、日光全体を一日かけて回るルートが定番になっている。男体山に登るという行為は、観光地・日光の風景を構成する山に登ることであり、二荒山神社の千年の登拝の道を踏むことでもある、二重の意味を持つ一日になる。

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