日本三大奇景の一座
妙義山は群馬県甘楽郡下仁田町・富岡市・安中市の境にまたがる山塊で、最高峰は相馬岳の標高1,103.8m。九州・大分の耶馬渓、香川・小豆島の寒霞渓と並んで日本三大奇景の一つに数えられる名勝で、1923年(大正12年)に国指定の名勝となった。標高は1,000m台と低いが、火山活動と浸食でできた岩塔・岩壁・尖塔が密集した独特の景観を持ち、北アルプスや南アルプスの主稜とはまったく違う異形の山として、関東の登山者に古くから知られてきた。
妙義山は中木川を境に南東側の表妙義と北西側の裏妙義に分かれる。表妙義は白雲山(1,104m)・金洞山(1,094m)・金鶏山(856m)の三つの岩稜エリアから成り、最高峰の相馬岳は白雲山に隣接する位置にある。裏妙義は丁須の頭・烏帽子岳・赤岩・御嶽など独立した岩塔群が連なる。537年(宣化天皇2年)創建と伝わる妙義神社が白雲山の南斜面に立ち、金洞山側には中之嶽神社が祀られている。山自体が信仰の対象として1,500年近い歴史を持つ。
妙義山ルート、安全な道と命がけの道
妙義山ルートは初級〜上級まで難易度の幅が極端に大きい。観光客と初級ハイカーが歩くのは、妙義神社と中之嶽神社を結ぶ中間道(関東ふれあいの道)。妙義神社・標高約450mから、本読みの僧・大砲岩・第四石門を経て中之嶽神社まで約4時間。最高峰は踏まないが、妙義の岩塔を見ながら山腹を巡るコースで、紅葉期の観光と組み合わせて歩く層が大多数だ。
中級者向けは石門巡りコース。第一石門から第四石門まで自然の岩のアーチを巡る周回で、所要約2時間。第二石門にはタテバリ(垂直の鎖場)とカニの横ばいがあり、中級者でも緊張する場面が連続する。
そして上級者向けが表妙義縦走(妙義神社 → 大の字 → 奥の院 → 見晴 → 玉石 → 大のぞき → 天狗岳 → 相馬岳 → 鷹戻し → 鶴岡 → 中之嶽神社、所要約8時間)。鎖場・鉄梯子・断崖が連続し、「日本一危険な一般登山道」と評されることもあるルートだ。鷹戻しと呼ばれる垂直の鎖場は約60mで、上部のホールドが乏しい。毎年複数の死亡・重傷事故が発生しており、軽い気持ちで入るルートではない。経験・体力・装備のすべてが揃わない場合は中間道に切り替える判断が必要だ。
妙義山アクセスと、選ぶルートで違う一日
妙義山アクセスは、東京から日帰り可能な範囲にある。東京駅からJR北陸新幹線で高崎駅まで約50分、信越本線に乗り換えて松井田駅まで約20分。松井田駅から妙義神社・道の駅みょうぎまでタクシーで約10分、徒歩40分。マイカーは上信越自動車道・松井田妙義インターチェンジ下車、道の駅みょうぎや妙義神社駐車場へ約5分。新宿を朝6時半に出れば9時前には登山口に立てるペースで、首都圏からの日帰り条件としては悪くない。
中之嶽神社側からのアクセスは、下仁田駅からタクシーで中之嶽神社・大駐車場まで約30分。表妙義縦走を狙うなら、妙義神社側と中之嶽神社側に車を分けて配置するか、片方をタクシー手配することになる。マイカー2台または公共交通の組み合わせをどう設計するかで、縦走の自由度が大きく変わるのが妙義山特有の事情だ。
妙義神社、中之嶽神社、岩塔の山岳信仰
妙義神社は537年(宣化天皇2年)の創建と伝わる古社で、白雲山の南斜面に立つ。徳川家光・家綱が篤く信仰し、社殿は江戸期の権現造の重要文化財。本殿の背後に切り立つ大の字岩が、神社全体の象徴になっている。妙義神社の名は「神の妙なる岩山」に由来するとされ、妙義山という山名そのものがこの神社から来ている。
中之嶽神社は金洞山の南西、第四石門の近くに立ち、日本一大きな大黒様の像(高さ20m、剣を持つ姿)が境内に祀られている。1983年(昭和58年)造立で、近世以降の信仰観光と古来の山岳信仰が混じった独特の境内構成になっている。妙義山の二つの神社は、岩塔という地形を信仰の対象として千数百年見続けてきた群馬の宗教文化の象徴でもある。
紅葉、写真、妙義紅葉ライン
妙義山の知名度を支えているのが紅葉だ。10月下旬から11月中旬にかけて、岩塔群と紅葉が同居する景観は全国の写真愛好家が押し寄せるレベルの華やかさになる。妙義紅葉ライン(群馬県道196号妙義山線)は下仁田から妙義神社方面に抜ける観光道路で、沿線の見晴台からは岩塔と紅葉の組み合わせを車窓で楽しめる。
紅葉期の妙義神社界隈は週末早朝から車で混雑し、駐車場は8時前に満車になる。観光と登山が同じエリアで並走するため、ハイカーは早朝5〜6時には現地に着いておくのが現実的だ。冬の妙義山は岩塔に冠雪し、冷えた青空と白い岩のコントラストが日本三大奇景の異質さを最も際立たせる季節になる。
妙義山の装備、服装、季節
妙義山の装備は、選ぶルートでまったく違う。中間道なら通常のトレッキングシューズと20Lザックで構わない。一方で表妙義縦走に挑むなら、ヘルメット必須、岩稜用グローブ、ハーネスの使用を検討するレベルの装備が要求される。鎖場が長く連続するため、ソールが硬く、岩に効くトレッキングシューズかアプローチシューズが必要だ。雨の日に縦走はしない。蛇紋岩は含まないが、湿った岩は驚くほど滑る。
妙義山の服装と季節について、推奨される登山シーズンは4月から11月。5月の新緑、10月下旬から11月中旬の紅葉が二大ピーク。夏は日陰が少なく、岩塔が太陽光を反射して暑い。冬は岩稜の凍結で縦走の難易度が一気に上がり、12月から3月の表妙義縦走は完全な冬山技術が必要になる。一般登山者の冬の対象は中間道までだ。水場は登山道上にほとんどなく、夏季は1.5Lを担ぐのが標準。妙義神社・道の駅みょうぎで補給は可能だ。
群馬県警の山岳遭難統計では、妙義山は標高1,100m台の山にもかかわらず谷川岳に次ぐ多発エリアに分類されている。鷹戻し・滑り台・タテバリといった具体的な事故ポイントが地図上で特定されており、群馬県山岳連盟と警察は登山者への注意喚起を毎年繰り返してきた。「奇景」と「危険」がワンセットで成立しているのが妙義山の本質であり、軽装で来る人と本気で挑む人の判断の差が、そのまま事故率の差として表れる。
裏妙義、荒船山、上信越のエッジ
表妙義を歩いたあとに視野を広げるなら、裏妙義が次の対象だ。丁須の頭(標高1,058m)の岩稜は表妙義よりも静かで、岩登りの技術を本格的に試せるエリア。さらに足を延ばせば、北西側に独特のテーブルマウンテン地形を持つ荒船山(1,422m)がある。崖の縁が直角に切り立つ荒船山の艫岩は妙義山と並ぶ群馬の名所だ。
上信越自動車道沿いに視野を広げると、浅間山・妙高山・四阿山といった百名山級の火山地帯が広がっている。妙義山は群馬西部の入口に立つ象徴的な山だが、本質的にはここから西へ続く上信越の火山と岩稜のネットワークの『最も特異な一座』として位置づけられる。標高に騙されず、山との向き合い方を試される一座として、世代を越えて関東のハイカーに通われ続けている。