群馬県

榛名山

榛名山(はるなさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

中央に湖、湖の真ん中に小さな富士山型の溶岩ドーム、それを囲むカルデラ稜線。一座の山ではなく『山岳テーマパーク』のような構造を持つ群馬の名山。

湖の真ん中に山がある、二重式火山

榛名山は群馬県高崎市・東吾妻町・渋川市にまたがる火山で、最高峰は外輪山の掃部ヶ岳(かもんがたけ、1,449m)、中央火口丘は標高1,390mの榛名富士。中央のカルデラ湖(榛名湖)を、榛名富士・烏帽子岳・相馬山・天目山・掃部ヶ岳など複数の外輪山が囲む二重式火山(複成火山)の構造を持つ。日本二百名山に選定されている。

榛名山の見どころは、一座の山頂ではなく『カルデラ全体が登山対象』という構造にある。中央火口丘の榛名富士はロープウェイで気軽に上がれる観光峰、外輪山の掃部ヶ岳と相馬山は本格派向けの登山対象。さらに古代信仰の中心となった榛名神社(山岳信仰の聖地)と、宿坊文化を残す麓の伊香保温泉が組み合わさり、観光と本気登山と温泉と古社が一つの山域に同居する稀有なエリアになっている。

歴史的には、6世紀(489年・525-550年頃)の大噴火で麓の集落が火砕流に飲まれ、後年「甲を着た古墳人」が発見されるなど、考古学的にも極めて重要な火山だ。現在の榛名山は静穏期に入って数百年が経過しており、観光・登山の対象として安全に楽しめる活火山として位置づけられている。

榛名山ルート、四つの目的別

榛名山ルートはピークごとに性格が違う。観光寄りの登山なら榛名富士ルートが定番だ。榛名湖畔(標高約1,090m)から登山口、または榛名山ロープウェイ高原駅から徒歩で山頂駅へ。徒歩なら登り約45分、ロープウェイなら片道3分。標高差300m・往復1時間半で『湖の中の独立峰』に立てるという、家族連れ・観光客に圧倒的人気のルートだ。山頂には榛名富士山神社が祀られている。

本格派ハイカーが狙うのが最高峰の掃部ヶ岳ルート(湖畔の南西側、湖畔亭横の登山口・標高約1,090m発)。登り約1時間30分。標高差約360m、距離は短いが急登が続き、山頂部の灌木帯を抜けた瞬間に榛名湖と榛名富士を眼下に見下ろせる構図が現れる。榛名湖を最高地点から俯瞰できる唯一のルートとして、地元ハイカーが繰り返し登る山頂だ。

東側の外輪山に位置する相馬山(1,411m)は信仰の山で、鎖場と急登を経て山頂の祠に至る本格的な登山対象。ヤセオネ峠ルート(標高約1,150m発)から登り約1時間20分。鎖場4〜5箇所、最後の急登は岩の急斜面でストックを収納したほうがよい。北側の烏帽子岳・鬢櫛山ルートは外輪山を縦走するコースで、榛名山外輪山一周を狙うなら6〜7時間の長距離コースになる。

榛名山アクセス、伊香保温泉から登る

榛名山アクセスは、上越新幹線高崎駅から路線バスで榛名湖まで約1時間20分。または上越線渋川駅から伊香保温泉行きバスで伊香保温泉まで約30分、そこから榛名湖行きバスに乗り換えて約30分。新宿を朝7時に出れば11時には榛名湖畔に立てるペースで、首都圏からの日帰り可能な範囲にある。バス本数は週末でも限定的なので、行き帰りの時刻を事前に確認しておくのが鉄則だ。

マイカーは関越自動車道・渋川伊香保インターチェンジ下車、伊香保温泉経由で約45分、または高崎インターチェンジから榛名神社・湖畔へ約1時間。榛名湖周辺には無料・有料の駐車場が複数あり、週末早朝7時前に到着すれば概ね駐車に困らない。湖畔1周のドライブだけでも観光体験として成立するため、ハイカー以外の来訪者も常に多い。

榛名神社、火の御子、古社の岩壁

榛名山の南西麓に立つ榛名神社は586年(用明天皇元年)の創建と伝わる古社で、火の御子(榛名の山と火山活動を司る神)を祀る山岳信仰の中心地。本殿は江戸末期の建立で、岩壁にめり込むように建てられた独特の社殿配置。本殿背後には御姿岩(みすがたいわ)と呼ばれる巨大な奇岩が立ち、神社全体が岩壁と一体化した極めて印象的な空間になっている。

参道は約700m、樹齢数百年の杉並木と矢立杉(樹齢約1,000年)が並ぶ。途中には三重塔(神宮寺の名残)、七福神像、行者渓、瓶子の滝(みすずのたき)など、信仰と自然の見どころが連続する。登山ではなく参拝目的で訪れる人も多いが、参道を歩くだけで30〜40分かかる本格的な散策ルートになっている。火山信仰と古来の山岳信仰が一つの神社に重なった、群馬を代表する宗教景観だ。

頭文字D、秋名山、現代の聖地

1990年代後半から2000年代にかけての漫画・アニメ『頭文字D(イニシャルD)』で、榛名山は主人公・藤原拓海のホームコースである「秋名山(あきなやま)」のモデルとして登場した。秋名山は架空の名称だが、伊香保温泉から榛名湖に上がる群馬県道33号と思しき下り坂が作中のコースとして描かれており、世界中のファンが『聖地巡礼』として榛名山を訪れる現象が生まれた。

現実の県道33号は登山道ではなく一般道で、ヘアピンカーブが連続するワインディングロード。現在も国内外の自動車・バイク愛好家が頻繁に訪れる観光スポットとして、榛名山の知名度を一段押し上げている。週末には海外ナンバーのレンタカーや観光大型バスが県道沿いに並ぶこともあり、登山対象としての榛名山と、ポップカルチャー由来の観光地としての秋名山が、一つの山域で共存している。

榛名山の装備、服装、季節

榛名山の装備は、登るピークで大きく変わる。榛名富士はロープウェイ往復ならスニーカーで構わない。掃部ヶ岳・相馬山・烏帽子岳など本格的なピークに登るならミッドカットのトレッキングシューズが必須。相馬山の鎖場では両手が使えるよう軽い手袋とザックの背負い方を意識する。長袖、薄手フリース、防水透湿レインジャケットを基本装備とする。

榛名山の服装と季節は1年を通じて楽しめるが、ピークは5月下旬から6月のヤマツツジ・レンゲツツジ、10月中旬から11月初旬の紅葉、1月から2月の榛名湖が結氷する冬景色。榛名湖は厳冬期に湖面が結氷し、ワカサギ釣り(穴釣り)の名所として知られる。冬は登山道に積雪と凍結があり、チェーンスパイクが12月から3月の必携装備に近い。湖畔と外輪山の標高は1,000〜1,500mで、平地より気温が10℃前後低いことを意識する。水場は湖畔の売店・自販機・トイレ周辺で確保できるため、行動水は1Lで充分だ。

榛名山の麓に湧く伊香保温泉は、奈良時代から知られる古湯で、365段の石段街が温泉地の象徴。茶褐色の含鉄塩泉「黄金の湯」と無色透明の「白銀の湯」が二大泉質。榛名山に登ったあと伊香保で湯に浸かり、石段街を散策して高崎方面に戻る一日プランは、群馬の温泉と山を組み合わせた古典的な行程として地元観光産業を支えてきた。竹久夢二や徳冨蘆花など多くの文人が逗留した文学の温泉地としての顔も持つ。

妙義、赤城、谷川。上毛三山の入口

榛名山を踏んだ次の選択肢は、群馬県の他の主要山岳『上毛三山(じょうもうさんざん)』だ。赤城山(1,828m、百名山)は榛名山と並ぶ群馬を代表するカルデラ火山で、地形構造もよく似ている。妙義山(1,104m)は岩稜と奇岩で日本三大奇景の一座。三つを順に踏めば、群馬の山岳地形を一通り理解したことになる。

本格派には、北側に控える谷川岳(1,977m、百名山)や、東に少し離れた武尊山(2,158m、百名山)が控える。榛名山は標高こそ中堅だが、群馬の山岳エリアを起点にして見渡せる位置に立っている。観光と登山と信仰を同時に味わえる入口の山として、世代を越えて関東のハイカーに親しまれ続けている。

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