富士山を真正面に見るための山
三ツ峠山は山梨県富士河口湖町・西桂町・都留市の境界にまたがる標高1,785mの山で、開運山(1,785m)・木無山(1,732m)・御巣鷹山(1,775m)の三峰の総称である。最高点は開運山だが、富士山の眺望が最も開けるのは木無山と開運山の間の稜線で、河口湖の向こうにそそり立つ富士山の構図は、葛飾北斎の富嶽三十六景にも繰り返し描かれてきた。日本百名山ではないが、富士山展望の山としては日本で最も写真が撮られている峰の一つで、年間を通じて登山者・写真家・観光客が訪れる。
表登山道と裏登山道、三ツ峠山ルート
三ツ峠山ルートは主に4本ある。最もアクセスしやすいのは三ツ峠登山口(裏登山道、御坂みち)で、河口湖からの三ツ峠登山口バス停(標高1,300m)から登り約1時間30分、下り約1時間。標高差約500mと最短で、初心者の入門路として圧倒的に選ばれる。難点は車道の終点に駐車場が限られ、夏季・紅葉期には早朝でないと停められない点だ。
西桂町側の表登山道(達磨石コース)は富士急行三つ峠駅から徒歩で登山口に到達でき、公共交通だけで完結する三ツ峠山アクセスとして有用だ。コースタイムは登り約3時間半、下り約2時間半。標高差約1,000mと本格的だが、達磨石・八十八大師・屏風岩といった信仰の石仏と岩壁を順に通過する道で、変化に富む。河口湖側からは天上山公園(カチカチ山ロープウェイ)からの縦走路もあり、半日歩いて三ツ峠山頂、その後裏登山道で下るプランも組める。
屏風岩、ロッククライミングの聖地
三ツ峠山が「写真の山」であると同時に持つもう一つの顔は、ロッククライミングのゲレンデとしての性格だ。表登山道の中盤にある屏風岩は、高さ約80mの安山岩の絶壁で、戦前の昭和初期から日本のロッククライミング黎明期の練習場として使われてきた。現在も週末には複数のパーティーがリードクライミングで取り付いており、登山道からこの様子を間近に見られる。
登山者として通過するときは、落石に注意する。クライマーがホールドを掴んだ際の石の落下、または岩自体の自然落下が頻繁にあり、ヘルメットを携行している登山者も少なくない。屏風岩直下の登山道は、滞留せずに速やかに通過するのが基本のマナーになっている。
三ツ峠山の時期、富士山が最も美しく見える季節
三ツ峠山の登山時期は4月から11月までが一般的だが、冬期も登山道は閉ざされず、12月から2月の樹氷と冠雪富士の組み合わせが写真愛好家には最も人気のシーズンになる。標高1,785mの稜線は冬季に積雪と凍結が混在し、軽アイゼンまたはチェーンスパイクが必須となるが、空気の透明度が年間で最も高く、富士山の輪郭が刃物のように切り立って見える。
夏季は雷と夕立に注意する。三ツ峠山は富士山の手前に立つ独立した稜線で、午後の対流性降雨と雷が発生しやすい地形にある。出発時刻を早朝に設定し、午後2時までに下山口に戻る計画が標準となる。秋の紅葉は10月下旬から11月上旬、ブナとカエデが斜面を染め、富士山の冠雪と紅葉が同時に見える短い時期がここで重なる。
三ツ峠山の装備と山頂からの富士山
三ツ峠山の装備は、標高1,785mとはいえ稜線の風と気温差を考慮して組む。夏でも山頂気温は15℃前後、風がある日は10℃を切る。化繊またはメリノの長袖、薄手のフリースかウィンドシェル、防水透湿のレインジャケットを基本とする。冬季登山にはチェーンスパイクとピッケル不要の軽アイゼン、保温性の高い手袋とニット帽までを揃える。
三ツ峠山の服装は写真撮影の長時間滞在を前提に組むと良い。日の出と日没の時間帯は気温が大きく動き、薄手のダウンジャケット1枚があると稜線での撮影時間が圧倒的に楽になる。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが基本で、岩混じりの登山道では足首の安定が重要になる。山頂周辺には三ツ峠山荘・四季楽園・三ツ峠グリーンセンターの3軒の山小屋があり、日帰り休憩・宿泊・テント泊のいずれにも対応している。富士山頂のご来光を山頂直下で待つために前泊する登山者も多い。
三ツ峠山の地名「三ツ峠」は、開運山・木無山・御巣鷹山の三つの峰に由来するという説と、水量豊富な「三つの井戸」に由来するという説の両方が地元に残る。山岳信仰の対象でもあり、表登山道沿いには八十八大師の石仏群が並ぶ。
開運山の三角点、富士の絶景線
三ツ峠山の最高点・開運山には電波塔が複数立ち、決して原生的な山頂景観ではない。むしろ富士山展望の主役は、開運山と木無山の中間に伸びる「富士見台」と呼ばれる稜線だ。ここに立つと、河口湖の湖面とその先の富士山が高さ・距離・角度ともに最適なバランスで並び、構図を選ばずに撮影しても絵になる位置取りができる。雲海が出る朝には、湖面が雲に隠れ、富士山が浮島のように見える。
下山後の温泉は河口湖周辺の湯多数。さらに歩き応えのある富士山展望の山を探すなら、東に毛無山、南に十二ヶ岳、西に黒岳・節刀ヶ岳の御坂山系の縦走、北に大菩薩嶺へと、富士山を別角度から眺める峰々が連なっている。一度三ツ峠山に登っておくと、その後富士山を見るたびに、自分が立っていたあの稜線の方角が自然と意識に上がってくる。