東京都の最奥にある奥多摩三山の盟主
三頭山は東京都西多摩郡檜原村と山梨県上野原市・小菅村の境にまたがる標高1,531mの山で、奥多摩三山(御前山1,405m、大岳山1,266m、三頭山1,531m)の最高峰として知られる。山名のとおり山頂部は三つのピークから成り、西峰(1,527m)、中央峰(1,531m)、東峰(1,528m)の三つを順に踏みながら歩く構造になっている。三角点は東峰、最高点は中央峰、富士山展望が最も開けるのは西峰と、三つの山頂それぞれに役割が分かれている。
三頭山の地理的な意味は大きい。秋川渓谷の源頭であり、東京都を流れる秋川・多摩川水系のはじまりがこの山に源を発する。さらに笹尾根の北端に位置し、東京都・山梨県・神奈川県の三都県を結ぶ稜線歩きの入口として機能している。中腹東面には「東京都檜原都民の森」が整備され、登山初心者から本格派まで、年間を通じて多様な登山者を受け入れる構造ができあがっている。
三頭山ルート、都民の森と奥多摩湖
三頭山ルートで最もよく使われるのは都民の森ルート(鞘口峠ルート)だ。檜原都民の森の駐車場(標高約1,000m)を起点に、三頭大滝・大滝の路を経由して鞘口峠から山頂へと登る。登り約1時間55分、下り約1時間30分。標高差わずか500mで奥多摩三山の最高峰を踏める首都圏最短の1,500m峰として、家族連れと初心者層に圧倒的な人気を持つ。
本格派が好むのが奥多摩湖側からのヌカザス尾根ルート(奥多摩湖・標高約530m発)。奥多摩湖の湖畔バス停から麦山浮橋を渡り、イヨ山・ヌカザス山を経由して三頭山に至るルートで、登り約3時間35分。距離10km・標高差約1,000mの長い尾根歩きで、奥多摩湖から三頭山を「歩いて一気に登りきる」充実感が味わえる。
縦走を組むなら笹尾根が古典だ。三頭山から槇寄山・西原峠・浅間峠を経由して陣馬山方面まで延びる長い尾根で、登山者は逆方向(笹尾根を北上して三頭山に至るコース、登り約3時間50分)を歩くことが多い。山梨県側の鶴峠ルート(鶴峠・標高870m発、登り約2時間25分)は中央線・上野原駅からアクセスできる隠れた裏ルートで、静かな登山を求める常連層に好まれる。
三頭山アクセス、新宿から都民の森まで
三頭山アクセスは、東京都西部の登山対象としては良好だ。新宿駅からJR中央線で武蔵五日市駅まで約1時間20分、駅前から西東京バスで「数馬」終点まで約1時間、数馬からは無料連絡バスまたは徒歩40分で都民の森に至る。新宿を朝7時に出れば10時には都民の森に立てる計算で、午前中に山頂を踏み、午後3時には新宿に戻れる行程が組める。
マイカーは都民の森駐車場(無料、約100台)が定番の起点。週末早朝7時には満車になることがあり、特に紅葉期(10月下旬〜11月上旬)と新緑期(5月)は8時前に到着しておくのが安全だ。奥多摩湖発のヌカザス尾根ルートを使う場合は、JR奥多摩駅からバスで「麦山浮橋」または「峰谷橋」バス停下車。都民の森ルートか奥多摩湖ルートかで体験がまるで違う山なので、登山者の体力と気分で選ぶことになる。
都民の森と、稜線のブナ原生林
三頭山の中腹東面に広がる東京都檜原都民の森は、1990年(平成2年)に開設された総合自然教育施設だ。森林館・木材工芸センター・大滝の路(バリアフリー散策路)・三頭大滝(落差約35m)を含む広範囲な散策エリアで、年間来場者は20万人を超える。標高1,000mの森林限界手前の世界を、子どもや車椅子の利用者でも体験できるよう整備されている。
都民の森から山頂稜線にかけて、三頭山の真価が現れる。標高1,200m以上の稜線は東京都内随一のブナの原生林で、樹齢200〜300年級のブナ巨木が点在する。新緑(5月)・初夏(6月)・黄葉(11月初旬)の三季は特に美しく、晩秋には落葉した枝越しに富士山が現れる。奥多摩は近年シカの食害で下層植生の劣化が進んでいるが、三頭山の主稜線のブナ林は今もきちんと残っており、東京都の自然のなかでも特異な質を保っている。
三つの山頂、富士山と雲取山
三頭山の山頂部は東西に細長い稜線で、東峰・中央峰・西峰の順に並ぶ。三つを縦に踏み歩くのに約30分。東峰には三角点と展望台があり、晴天時には新宿副都心の高層ビルまで望める。中央峰は最高点1,531mの標識のみ、ブナ林に囲まれた静かなピーク。西峰は最も視界が開け、富士山と雲取山を同時に望めるベストの展望地で、休日昼時には多くのハイカーがここで昼食を取る。
三つの山頂は標高が3m差・4m差の微差で並んでおり、「最も高い山頂」を意識せずに歩くと気づかずに通過してしまうことすらある。三頭山の楽しみは「最高点を踏む」ことよりも、ブナ林を3つの山頂で繋ぐ稜線歩きそのものにある。
三頭山の装備、服装、季節
三頭山の装備は、選ぶルートで大きく変わる。都民の森から登るなら街靴に近い軽装でも歩けるが、ヌカザス尾根や笹尾根を歩くなら本格的なトレッキングシューズが必須になる。前者は累積標高差500m、後者は1,000mを超えるため、想定する体力が大きく異なる。長袖、薄手フリース、防水透湿レインジャケットを基本セットとし、稜線部分の風対策にウィンドシェルを追加する。
三頭山の服装と季節について、最も評価が高いのは5月下旬の新緑、10月下旬から11月上旬の黄葉、1月から2月の樹氷期の三つ。標高1,500m級の都民の森周辺は冬季に頻繁に積雪と凍結が発生し、チェーンスパイクは12月から3月の必携装備になる。年によっては樹氷も観察できる。水場は都民の森内の施設にあるが、稜線には水場がないため、夏季は1.5Lを担ぐのが標準だ。
三頭大滝は落差約35m、都民の森の象徴的なスポットで、雪解け期の4月から5月にかけて水量が最も豊富になる。冬は氷瀑(凍結した滝)として現れる年もあり、寒波直後の都民の森では氷の壁が見られる。都民の森の「大滝の路」は車椅子・ベビーカーでも通行できるバリアフリー仕様で、登山者ではない来訪者にもこの森を体験する道が用意されているのが、東京都の都民の森ならではの特徴になっている。
御前山、大岳山、雲取山へ
三頭山を踏んだ次の選択肢は、奥多摩三山の残り二座だ。北の奥多摩湖を挟んで対岸に立つ御前山(1,405m)、御前山の東に続く大岳山(1,266m)と踏破していけば、奥多摩三山を制覇したことになる。大岳山からは御岳山ケーブルカーで下りられるため、無理のないペースで日帰り可能だ。
もう一つの方向は、笹尾根を南下して陣馬山・高尾山に至る長距離縦走、または北西の雲取山(2,017m、東京都最高峰)に向かう奥多摩主脈縦走だ。三頭山の西峰から見えていた雲取山を実際に目指す行程は、東京都の山岳エリアを縦断する経験として首都圏のハイカーに長く愛されている。三頭山は単独の日帰り対象としても満足度が高いが、東京都の山域を歩き始める入口として位置づけたとき、その地理的な重要性がより鮮明になる。