現役の活火山、阿寒の地形の中心
雌阿寒岳は北海道東部、阿寒摩周国立公園の中心部に位置する標高1,499mの成層火山である。隣接する雄阿寒岳(1,370m)、阿寒湖、オンネトーといった阿寒の象徴的な地形は、雌阿寒岳の繰り返された噴火と山体崩壊によって形作られてきた。現在も気象庁の常時観測対象であり、噴火警戒レベルが日々更新される「歩いて火口に近づける百名山」として、登山者と火山見学者の両方に親しまれている。直近では1998年・2006年・2008年に小規模な水蒸気噴火を起こしており、登山可能日であってもレベル変動の可能性は常に念頭に置く必要がある。
雌阿寒岳ルートと阿寒湖周辺のアクセス
雌阿寒岳ルートは3本ある。最短かつ最も使われるのは南西側の雌阿寒温泉コース(標高約700m発、登り約2時間半)、次いで北西側のオンネトーコース(オンネトー湖畔から登り約3時間半)、そして比較的近年整備された阿寒湖畔コース(登り約4時間)。雌阿寒温泉コースとオンネトーコースを組み合わせた周回が最も人気で、オンネトー湖畔の紅葉と火口の対比を一日のなかで体験できる構成になっている。
雌阿寒岳アクセスは、釧路空港からレンタカーで約1時間半、女満別空港からは約2時間。公共交通機関では阿寒バスの阿寒湖温泉行きが利用できるが、登山口までは別途タクシーまたは徒歩でのアプローチが必要になる。雌阿寒温泉野中温泉は登山口直結の一軒宿で、前泊・後泊ともに便利な拠点として登山者に重宝されている。
標高差700m、初心者の百名山
雌阿寒岳の登山は、北海道の百名山のなかでも標高差・距離ともに最も小さい部類に入る。雌阿寒温泉コースの場合、登山口から山頂までの累積標高差は約800m、コースタイムは2時間半。山岳経験の浅い人が「最初の百名山」として選びやすい山で、夏季の最盛期には家族連れや観光延長の登山者も多い。
とはいえ、山の性格は穏やかではない。八合目を過ぎると樹林帯を抜け、火山礫と裸地の急斜面が続き、強風時には行動が制約される。火口の縁では硫化水素を含むガスが立ち上る区間があり、風向きによっては喉と目に明確な刺激を感じる。雌阿寒岳の装備は、本州の同標高帯と同等の防寒・防風装備(化繊長袖、フリース、レインウェア、手袋、ニット帽)に加え、ガスの強い日に備えて湿らせたタオルや軽量マスクを携行することを勧めたい。
雌阿寒岳の時期、雪解けから雪が乗るまで
雌阿寒岳の登山時期は5月下旬から10月下旬まで。北海道の百名山のなかでは比較的開期が長い部類に入るが、それでも7月から9月が最盛期となる。標高1,499mと低めではあるが、山頂部は強風と火山ガスの影響で植生が乏しく、夏でも気温10℃前後、強風時の体感は5℃を下回る。
雌阿寒岳の服装は、阿寒湖畔のリゾート気分の延長で考えないことが肝心だ。麓の野中温泉から登山口に立った時点で気温差は10℃近く、山頂は更に冷える。秋の紅葉期(9月下旬から10月中旬)はオンネトー湖畔のダケカンバ・カエデと、火口周辺の枯れた火山地形のコントラストが特徴的で、阿寒の中で最も色のメリハリが強い時期になる。10月後半に入ると初冠雪、11月以降は冬山装備が必要となる。
気象庁の雌阿寒岳噴火警戒情報は、出発前夜と当日朝の両方で必ず確認する。レベル1(活火山であることに留意)でも、火口周辺立入規制が局地的に出ることがある。野中温泉や阿寒湖畔のビジターセンターには最新規制が掲示されている。
九合目、赤沼、青沼、そして阿寒の湖たち
雌阿寒温泉コースを登り切って八合目に出ると、視界が一気に開け、足元には三つの火口が姿を現す。中央火口、赤沼(火口湖)、青沼が並び、湯気と硫黄の白い煙が常に立ち上る。九合目から山頂までは火口の外輪をたどる道で、風が稜線を抜けるたびに硫黄の匂いが強弱を繰り返す。
山頂からは、北東に雄阿寒岳と阿寒湖、北西にオンネトー湖と雌阿寒岳の山影、はるか遠くに大雪山系の旭岳と十勝岳連峰、晴れていれば斜里岳と知床連山までを一望できる。下山後はオンネトー湖畔の遊歩道を経て湖を周回しながら戻るか、野中温泉に直行して温泉に浸かるか、いずれにせよ阿寒の地形の構造が一日のなかで完結する。次に北海道の百名山を歩くなら、隣接する大雪山系の旭岳、あるいは知床の羅臼岳が自然な次の選択肢になる。