東京都最高峰、三県境の山
雲取山は標高2,017m、東京都西多摩郡奥多摩町・埼玉県秩父市・山梨県北都留郡丹波山村の三県境にそびえる東京都最高峰だ。秩父多摩甲斐国立公園の核心部に位置し、奥多摩・秩父・大菩薩連嶺と続く広大な山域の中心に立つ。深田久弥は『日本百名山』で雲取山を取り上げ、首都圏に近接しながら山深い秩父山系の主峰として位置づけた。標高は2,000mをわずかに超える数字だが、登山口から山頂までの距離が長く、日帰り強行が現実的でない奥深い山として性格づけられる。
雲取山の特徴は、東京都の最高峰でありながら、東京都の市街地から仰ぎ見ることがほとんどできない点にある。富士山が東京から見える対象であるのに対し、雲取山は奥多摩湖を越えてさらに奥に分け入らないと姿が見えない。「首都圏に最も近い、本格的な2,000m峰」として、奥多摩エリアの登山対象の中で最高位に位置する山だ。週末の二日間で完結する小屋泊登山として、東京近郊の登山者に長く愛されてきた。
鴨沢ルート、奥多摩からの王道
雲取山ルートで最も標準的なのが、東京都奥多摩町の鴨沢(かもさわ)ルートだ。奥多摩湖畔の鴨沢バス停(標高540m)を起点に、堂所・七ツ石小屋・七ツ石山・ブナ坂・奥多摩小屋跡・小雲取山を経て雲取山山頂に至る。標高差約1,500m、コースタイムで登り5〜6時間、下り3〜4時間。一日目に鴨沢から雲取山荘まで上がって一泊、二日目に雲取山山頂を踏んで下山する一泊二日が標準的な計画になる。
もう一本の主要ルートが、埼玉県秩父市側の三峯神社ルート。三峯神社(標高1,100m)を起点に、霧藻ヶ峰・前白岩山・白岩山・芋ノ木ドッケを経て雲取山に至る。標高差約900m、コースタイムで登り5〜6時間。鴨沢ルートよりも標高差が少ないが距離は長く、奥秩父の稜線歩きを十分に味わえる構成。三峯神社からの登り、雲取山荘で一泊、翌日に鴨沢へ下山する縦断ルートは雲取山を二泊三日で味わう定番のロングプランとして歩かれている。
雲取山荘、奥多摩唯一の有人山小屋
雲取山周辺の有人山小屋は数が限られている。雲取山荘は山頂の北側、標高約1,830mに立つ通年営業の山小屋で、雲取山登山者のほぼ全員が利用する中心拠点になっている。収容人数は約200名と奥多摩エリアでは大型の小屋で、温水シャワー・夕食のすき焼きなど、山小屋としては設備が充実している。ピーク時の予約は数週間前から必須。
鴨沢ルートの中間に立つ七ツ石小屋は休憩・テント泊が中心の小規模な小屋。三峯神社ルートにはかつての白岩小屋があったが現在は廃業しており、雲取山登山の宿泊は事実上「雲取山荘の一択」という構造になっている。三条の湯は雲取山の南面、標高1,100mに立つ温泉付き山小屋で、後山林道経由の三条ダルミルートを使う登山者が利用する。雲取山の登山計画は、雲取山荘の予約状況から逆算して組むのが現実的だ。
通年登山の山、季節と装備
雲取山の時期は、無雪期に関しては概ね4月から11月。冬季も雲取山荘が通年営業しているため雪山登山の対象としても人気だが、稜線では積雪量が増えるため軽アイゼン・冬装備が必須となる。通年登山が可能な数少ない首都圏近郊の本格山岳として位置づけられる。5月の新緑、7〜8月の夏山シーズン、10月後半の紅葉、11月の冬枯れの稜線と、季節ごとに異なる表情を見せる。
雲取山の服装と装備は、標高2,000mの長時間行動を前提に組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴、ザックは一泊二日なら30L以上が標準。鴨沢ルートは標高差1,500mの長い登りに対応する体力が必要で、トレッキングポールがあると下りの膝が楽になる。冬季の登山では軽アイゼン・厳冬期用シェル・予備の防寒着が必須。日帰り強行は鴨沢ルートで可能だが、コースタイム10時間超となり推奨できない。
雲取山の山頂から見るご来光は、東に丹沢山塊と相模湾、南に富士山、西に南アルプス・八ヶ岳、北に奥秩父の稜線という、首都圏近郊では得がたい広大な構図になる。雲取山荘に前泊して未明にヘッドランプで出発し、山頂で朝を迎える計画は、雲取山登山の最大の楽しみのひとつ。富士山が朝日でオレンジに染まる時間帯は、首都圏から最も近い場所で味わえる「3,000m峰の朝」になる。
奥多摩駅、三峯神社 — 首都圏からのアクセス
雲取山のアクセスは、鴨沢ルートならJR青梅線奥多摩駅から西東京バスで鴨沢バス停まで約35分。マイカーの場合は鴨沢周辺の駐車場(鴨沢西駐車場・小袖乗越駐車場)まで車で入れる。三峯神社ルートは西武秩父線西武秩父駅から西武バスで三峯神社まで約75分、またはマイカーで三峯神社駐車場まで。
首都圏からは新宿駅からJR中央線・青梅線で奥多摩駅まで約2時間、または西武新宿駅から西武秩父駅まで特急で約1時間半。マイカーなら中央自動車道八王子IC・関越自動車道花園ICから1時間半。首都圏から「公共交通でアクセスできる本格2,000m峰」として、車を持たない都心の登山者にも利用しやすい立地が雲取山の人気を支える。下山後は奥多摩駅周辺の温泉「もえぎの湯」、三峯神社側なら大滝温泉などで汗を流して帰路につく。雲取山に登るという行為は、東京都の最高峰を踏むことであると同時に、首都圏に最も近い「奥山」の文脈を歩くことでもある。