箱根外輪山の北端、金太郎の山
金時山は箱根の外輪山の北端に位置する標高1,212mの独立峰で、神奈川県南足柄市・箱根町と静岡県小山町の境にまたがる。平安時代の伝説の英雄・坂田金時(幼名・金太郎)が育った山として知られ、山頂には公時神社の祠が立つ。「金太郎の生まれた山」という民話と、箱根の温泉郷からアクセス抜群の独立峰という地理的条件が重なり、関東圏では富士山展望の日帰り登山として圧倒的な人気を持つ。
金時山ルートと選び方
金時山ルートは主に3本ある。最も使われるのは公時神社コース(仙石原・公時神社入口バス停発、標高約700m)で、登り約1時間半、下り約1時間。公時神社の鳥居をくぐって金時宿り石を通過し、矢倉沢峠を経て山頂に至る最も伝統的なルートだ。
南東側の金時登山口コースは矢倉沢峠バス停から登る最短ルート(登り約1時間20分)で、矢倉沢峠で公時神社コースと合流する。北西側の乙女峠コースは乙女峠から長尾山を経て山頂に至る縦走路で、登り約2時間。仙石原側から登って乙女峠側に下る周回プランは、距離・難易度・景観のバランスが最も良い構成として地元の山岳会が推奨してきた。
金時山アクセス、首都圏からの日帰り
金時山アクセスは、首都圏の登山対象としては破格に良い。新宿から小田急ロマンスカーで箱根湯本まで約1時間30分、箱根湯本から箱根登山バスで仙石原(公時神社入口)まで約30分。朝8時に新宿を出れば10時には登山口に立てる計算で、夕方には都内に戻れる。
あるいは小田急の御殿場線方面から、JR御殿場駅で下車して箱根登山バス・富士急バスで乙女峠へ向かう経路もある。乙女峠からの登山は標高1,000mから歩き始めるため、標高差はわずか212m。最短の金時山ルートとして、体力に不安のある人や時間に余裕のない週末登山者によく選ばれる。マイカーの場合は公時神社駐車場(無料、約30台)または乙女峠の駐車場が起点になる。
金時宿り石、矢倉沢峠、そして急登
公時神社コースで登る場合、序盤は緩やかな樹林帯を歩くが、金時宿り石(金太郎が雨宿りしたという巨石)を過ぎてから矢倉沢峠までは緩い登り、その後山頂直下までの30分はやや急な階段状の道に変わる。標高差700mを1時間半で登る計算になるので、距離は短いが体感はそれなりに登り応えがある。
山頂直下にはやや急な木の階段とロープ場が連続する。子連れや初登山の人が多く訪れる山だが、雨天時には木道が滑りやすくなるため油断は禁物だ。途中の矢倉沢峠には「うぐいす茶屋」、山頂には「金時娘の茶屋」「金太郎茶屋」の2軒があり、山頂で温かい食事と飲み物が買えるという、関東の低山としては珍しい設備が整う。
金時山の装備と服装、季節
金時山の装備は、標高1,212mの稜線を歩く前提で組む。夏でも山頂気温は20℃前後、強風時はそれより5℃程度下がる。化繊またはメリノの長袖、薄手のフリースかウィンドシェル、防水透湿のレインジャケットを基本セットとする。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが望ましく、特に山頂直下の階段では足首の安定が下りで差を生む。
金時山の服装は、季節によって幅を持たせて準備する。冬期(12月から2月)は積雪と凍結が混在する日があり、チェーンスパイクまたは軽アイゼンを念のため携行したい。一方で、低山ゆえに快晴日が多く、冬の富士山が最もシャープに見えるシーズンでもある。金時山の時期としては、4月の桜・新緑、10月から11月の紅葉、12月から2月の冠雪富士の三つがピークで、年間を通じて登山者が絶えない。夏季は雷と熱中症に注意し、出発は早朝に設定する。水場は登山道上にないため、最低1Lを担ぐ。
金時山の山頂茶屋「金時娘の茶屋」は1953年創業、戦前から続く名物茶屋だ。きのこ汁・なめこ汁・ぜんざい・コーヒーなどが供される。同店の女将は「金時娘」の名で長年親しまれ、年間100万人を超える登山者を見てきた人物として地元では知られている。
山頂から、富士と芦ノ湖と
金時山の山頂は岩塊で構成された30m四方ほどの広場で、北西側に視界が一気に開ける。正面に富士山、その手前に乙女峠の稜線、左手に芦ノ湖と箱根の外輪山、右手に丹沢山地と御殿場の市街地。富士山の見え方として、独立峰として完璧な構図が広がる位置取りで、富士山頂までの距離わずか30km、これが標高1,200m台の山から見られるという点で関東屈指の展望峰になっている。
下山後は箱根仙石原の温泉郷で湯に浸かるのが定番のルーティンだ。次に箱根周辺の山を続けるなら、外輪山の縦走として明神ヶ岳〜明星ヶ岳、あるいは芦ノ湖の対岸に立つ駒ヶ岳・神山が自然な選択肢になる。金時山に登り終えたあとに振り返ると、「箱根」という地形が単なる温泉地ではなくカルデラの中の盆地だったことが、視覚的に納得できているはずだ。