山形と宮城の境、火口湖を抱く連峰
蔵王山は山形県と宮城県の県境にまたがる活火山の連峰で、最高峰の熊野岳(1,841m)を中心に、刈田岳(1,758m)・地蔵山(1,736m)・烏帽子岳など複数の峰が連なる。蔵王国定公園の核心部に位置し、東北南部の代表的な火山山岳として知られる。「蔵王山」という名前は単独の山頂を指す名ではなく、蔵王連峰の総称として使われる。深田久弥は『日本百名山』で蔵王山を取り上げ、火口湖「御釜」を擁する活火山地形と冬の樹氷景観の双方を強調した。
蔵王連峰の中心的なランドマークが、刈田岳と熊野岳の間に位置する火口湖「御釜(おかま)」だ。直径約330m・深さ約27mの円形の火口湖で、湖面の色が太陽の角度や季節によって青・緑・乳白色と変化することから「五色沼」とも呼ばれる。御釜は宮城県側の蔵王ハイラインの終点近くにあり、徒歩で火口縁まで歩いて湖面を直接見下ろせる構造になっている。蔵王山に登るという行為は、山頂を踏むことであると同時に、御釜を見ることと不可分になっている。
刈田岳・熊野岳、山頂周辺の歩き方
蔵王連峰の登山は、蔵王ハイラインまたは蔵王エコーラインで標高1,700m台まで車道で上がれるという、極めて手軽な構造を持つ。宮城県側の蔵王ハイラインで刈田岳駐車場(標高1,738m)まで入れば、御釜の縁・刈田岳山頂までは徒歩10分程度。そこから熊野岳までは「馬の背」と呼ばれる稜線を歩いて約1時間。山頂周辺は登山らしい登り下りはほとんどなく、稜線散策の感覚で歩ける。
本格的な登山として登るなら、山形県側の蔵王温泉から蔵王ロープウェイで地蔵山頂駅まで上がり、地蔵山・熊野岳・刈田岳を縦走するルートが標準。または蔵王温泉から登山道を歩いて稜線に出る道もあるが、コースタイムは長くなる。「観光と組み合わせるなら蔵王ハイライン、登山として歩くなら蔵王温泉起点」という選択肢が並立する山だ。
樹氷、世界でも稀な冬の景観
蔵王連峰が世界的に知られる最大の理由が、冬の樹氷(じゅひょう)だ。アオモリトドマツの樹木に、シベリアから日本海を経て届く水蒸気を多く含んだ季節風が吹き付け、過冷却の水滴と雪が樹木に付着して凍結する現象で、巨大な氷の塊が立ち並ぶ独特の景観を形成する。樹氷は世界的にも極めて限定された地域でしか観察されない気象現象で、蔵王の樹氷群は世界最大級の規模として知られる。
樹氷の鑑賞期は1月中旬から3月上旬。山形県側の蔵王温泉スキー場と蔵王ロープウェイが主要なアクセスで、ロープウェイで地蔵山頂駅まで上がれば、樹氷の中を歩く体験ができる。冬季の夜間にはライトアップされた樹氷(樹氷ナイトクルーザー)も人気が高い。冬山登山として蔵王に登るなら、樹氷の中を歩いて熊野岳・刈田岳を踏む計画になるが、冬の蔵王は強風と低温が常時あり、本格的な雪山装備が必須になる。
活火山としての蔵王、噴火警戒レベル
蔵王山は現在も活発な活火山として気象庁の常時観測対象になっている。御釜周辺で噴火警戒レベルが上がる年もあり、その場合は御釜の縁・刈田岳・熊野岳周辺が立入規制となる。出発前には必ず気象庁の蔵王山火山情報を確認したい。火山ガスの放出があるため、火口周辺では呼吸器系疾患のある人は接近を控えることが推奨される。
蔵王山の時期は、登山シーズンとして無雪期に関しては概ね5月から10月。蔵王エコーライン・蔵王ハイラインの運行期間(4月下旬〜11月上旬)が観光と登山の両方の標準シーズン。冬季の蔵王は樹氷の季節として全く別の山岳体験となる。装備は無雪期でもフリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴。ザックは日帰りなら15Lで十分。冬季登山は冬山フル装備が必須。
熊野岳の山頂から見るご来光は、東に太平洋と仙台平野、北に月山と朝日連峰、西に山形盆地と日本海、南に吾妻連峰と福島の山々という、東北南部の中心に立つ連峰ならではの広大な構図になる。蔵王温泉に前泊して未明にロープウェイの始発で地蔵山頂駅まで上がり、稜線を歩いて山頂で朝を迎える計画も可能だ。冬季の樹氷ライトアップは、夜間にロープウェイで上がって体験する独特の景観で、東北の冬の象徴的な観光体験として知られる。
蔵王温泉、山形駅・仙台駅 — アクセス
蔵王山のアクセスは、山形県側からJR山形駅から山交バスで蔵王温泉まで約40分、そこから蔵王ロープウェイで地蔵山頂駅まで約20分(運行は通年)。宮城県側からはJR仙台駅からミヤコーバスで蔵王刈田山頂まで蔵王ハイライン経由(運行は4月〜11月)。マイカーの場合は蔵王エコーライン・蔵王ハイラインで刈田岳駐車場まで車で入れる。蔵王温泉は強酸性硫黄泉として東北でも屈指の名湯で、登山と温泉を組み合わせた一日プランが定番。
首都圏からは東北新幹線で山形駅まで約2時間40分、または仙台駅まで約90分。マイカーなら東北自動車道村田JCT経由で山形側または宮城側に入れる。首都圏から日帰り登山が可能な東北の名山として、蔵王山は週末登山の人気対象だ。下山後は蔵王温泉(山形側)、遠刈田温泉(宮城側)で汗を流す。蔵王山に登るという行為は、活火山の御釜を覗き込むことであり、冬には世界最大級の樹氷の中を歩くことでもある、二つの季節がまったく異なる山岳体験を提供する稀有な山行になる。