山形県

月山

月山(がっさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

出羽三山の一つ、月の名を持つ霊山。標高1,984m、夏でも雪渓が残るこの山は、東北の山岳信仰の中心の一つとして千年以上の歴史を持つ。

出羽三山の一つ、月の名を持つ霊山

月山は標高1,984m、山形県東田川郡庄内町・西川町・鶴岡市にまたがる火山だ。磐梯朝日国立公園の核心部に位置し、出羽三山(でわさんざん)の一つとして、羽黒山(414m)・湯殿山(1,500m)と並んで東北の山岳信仰の中心を成す。深田久弥は『日本百名山』で月山を取り上げ、出羽三山信仰の中軸としての位置と、夏でも雪渓が残る豊富な積雪を強調した。山名の「月」は、山頂部に祀られる月読命(つくよみのみこと)に由来し、月を御神体とする独特の信仰を持つ。

出羽三山信仰は、羽黒山=現世、月山=過去(死後の世界)、湯殿山=未来(再生)の三段階の擬死再生の修行として構成される。修験者は羽黒山から月山を経て湯殿山へと巡る「三関三渡」の行で死と再生を体験するとされ、江戸期には全国から「奥の細道」などを通じて参詣者が訪れた。松尾芭蕉も奥の細道で月山に登拝し、「雲の峰幾つ崩れて月の山」の句を残している。月山に登るという行為は、現代でも出羽三山信仰の千年以上続く文脈の中に身を置くことを意味する。

月山八合目、弥陀ヶ原を経て山頂へ

月山ルートで最も標準的なのが、月山八合目(標高1,400m)を起点とするルートだ。月山八合目から弥陀ヶ原・九合目仏生池小屋・行者返しを経て山頂に至る。標高差約580m、コースタイムで往復5〜6時間。途中の弥陀ヶ原は本州有数の高層湿原で、7月から8月のニッコウキスゲ・ハクサンイチゲなどの高山植物の最盛期には花畑となる。

もう一本のルートが、姥沢(うばさわ)駐車場(標高1,160m)から月山ペアリフトで姥ヶ岳分岐まで上がり、そこから牛首・鍛冶小屋を経て山頂に至る。リフト利用で標高差を一気に稼げるため、夏スキーや観光と組み合わせて使われることが多い。山頂には月山神社本宮があり、登拝者は神社の社務所で祓いを受けてから境内に入る形になっている。

夏スキーの山、6月から始まる雪渓滑走

月山の独特な特徴の一つが、夏でも雪渓が残るほどの豊富な積雪量だ。姥沢の月山スキー場は4月中旬から7月下旬まで営業する、日本の主要なスキー場の中で最も遅くまで滑れる「夏スキー場」として知られる。6月から7月にかけてはスキー・スノーボードを楽しむ人と、登山者・観光客が同じリフトに乗り合わせる光景が見られる。日本の他の山ではほとんど見られない、夏に雪山を楽しめる稀有な山域だ。

夏スキー期は登山道の一部にも雪渓が残るため、軽アイゼンやストックを携行する登山者もいる。9月以降は通常の夏山登山シーズンとなり、紅葉の見頃は10月中旬から下旬。月山の時期は、登山シーズンとして7月から10月初旬、夏スキー期として4月から7月という二段構えの構成を持つ。冬季の月山は豪雪地帯となり、山頂部への登山は本格的な雪山装備が必要になる。

月山神社、千年以上続く登拝の系譜

月山の山頂には月山神社本宮が祀られている。延喜式神名帳にも記載される古社で、月読命を御祭神とする。山頂祠への登拝には、登拝料500円を社務所で納め、神主の祓いを受けてから境内に入るという、現代日本の山岳でも稀な宗教的儀礼が今も維持されている。一般登山者でも参拝可能だが、登拝料は登山が宗教的行為であることの明確な印になっている。

出羽三山では、羽黒山→月山→湯殿山と巡る「三山参り」が現代でも行われている。羽黒山は比較的アクセスしやすく日帰りで参拝できるが、月山・湯殿山は登山を伴う本格的な行程となる。月山に登るという行為は、北アルプスや南アルプスのピークハント登山とは違う、山岳信仰の文脈に踏み入ることでもあり、現代と古代の信仰が連続している稀有な体験を提供してくれる。

山小屋と装備、夏の月山

月山周辺の山小屋は数が限られている。仏生池小屋(九合目)は月山八合目ルートの中継点に立つ通年営業の小屋で、宿泊・食事・休憩が可能。山頂直下にも月山頂上小屋があり、収容人数は小規模だがご来光を狙う登山者の宿泊地として機能する。月山は基本的に日帰り登山が可能な山だが、山小屋に一泊して山頂で朝を迎える計画も人気が高い。

月山の服装と装備は、2,000m級の長時間行動を前提に組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴。ザックは日帰りなら20Lで十分。夏でも雪渓が残る区間では軽アイゼンの携行があると安心、特に6〜7月は雪渓通過の場面が出る。雷雨のリスクが高い午後に稜線にいることは避け、午前中に山頂を踏んで早めに下る計画が定石になる。

月山頂上小屋に泊まって見るご来光は、東に蔵王連峰と仙台平野、南に朝日連峰、西に庄内平野と日本海、北に鳥海山という、東北南部の中心に立つ独立峰の構図になる。日本海に沈む夕日と山頂の祠を組み合わせて見る光景は、月山ならではの一枚として知られる。新月期の夏の夜は、月山八合目周辺の暗さと標高2,000mが組み合わさり、東北南部でも有数の星空観望地として知られる。

山形駅、月山八合目、姥沢 — アクセス

月山のアクセスは、JR山形駅または鶴岡駅から月山八合目までバス(夏季限定運行)で約90分。マイカーの場合は月山八合目駐車場まで車で入れる。姥沢ルートは寒河江・山形側から月山スキー場行きの送迎バス(夏期)またはマイカーでアクセス。出羽三山参拝と組み合わせるなら羽黒山経由のアクセスが伝統的で、羽黒山から月山八合目までは月山ビジターセンター経由の送迎バスがある。

首都圏からは東北新幹線で山形駅まで約2時間40分、または鶴岡駅まで山形新幹線・羽越本線経由で約4時間。庄内空港から月山方面まで車で約1時間半でアクセス可能。下山後は月山志津温泉、湯殿山仙人沢温泉などの庄内・山形の温泉で汗を流す。月山に登るという行為は、出羽三山の中心を踏むことであり、千年以上続く山岳信仰の道を歩くことであり、夏でも雪渓が残る稀有な山の山頂に立つことでもある。東北の山岳文化の核心に触れる一日になる。

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