長野県

御嶽山

活火山であることをこれほど強く意識させる3,000m峰は、ほかにない。2014年の噴火以後、御嶽山に登るという行為の意味は変わった。

独立峰の3,000m、長く信仰の対象だった山

御嶽山は標高3,067m、長野県木曽町・王滝村と岐阜県下呂市・高山市にまたがる独立峰の活火山だ。北アルプス・中央アルプス・南アルプスのいずれにも属さず、周囲を遥かに見下ろす一座として独立している。山頂部は剣ヶ峰(3,067m)・摩利支天山・継子岳・継母岳・三笠山・継子二峰・王滝頂上などの複数の峰が連なり、その間に二ノ池・三ノ池・四ノ池・五ノ池というカルデラ湖が点在する。複合火山として日本でも有数の規模を持ち、深田久弥は『日本百名山』で御嶽山を信仰の山として記述した。

御嶽山は古くから御嶽信仰の対象として、富士山・立山・白山と並び称されることもある「修験の山」だった。江戸期に普寛上人・覚明上人により大衆登拝の道が開かれて以降、御嶽教・木曽御嶽本教などの講組織が全国に広がり、白装束に金剛杖を持った行者が山頂を目指す登拝が盛んに行われた。現在も御嶽山の各登山道には霊神碑(れいじんひ)が無数に立ち並び、登拝の道としての性格を強く残している。御嶽山に登るという行為は、3,000m峰のピークハントであると同時に、長く続いてきた山岳信仰の文脈に踏み入ることでもある。

2014年9月27日、戦後最悪の火山災害

御嶽山の登山を語るとき、2014年9月27日の水蒸気噴火を抜きにすることはできない。土曜日の正午直前、山頂直下で大規模な水蒸気噴火が発生し、噴石・火山灰・火砕流が山頂周辺を襲った。死者58名・行方不明者5名という、戦後の日本における最悪の火山災害となった。事前の前兆は限定的で、噴火警戒レベルは噴火当日まで「1(活火山であることに留意)」のままだった。山頂直下の山小屋や登山者が直接被災し、捜索活動は冬を挟んで複数年にわたった。

この噴火を受けて、御嶽山の登山環境は根本的に変わった。剣ヶ峰山頂を含む山頂部一帯は数年にわたって立入規制が敷かれ、その後段階的に解除されたが、現在もヘルメットの携行・着用、登山届の事前提出、シェルターへの待避経路の確認が登山者の遵守事項として明確に位置づけられている。山頂部にはコンクリート製の緊急退避シェルターが複数設置され、噴火警戒レベルが上がった場合の規制ラインも明文化された。御嶽山に登るということは、活火山に登るという事実を引き受けることでもある。

黒沢口、王滝口、小坂口 — 三つのルートの現状

御嶽山ルートは伝統的に長野県側の黒沢口・王滝口・開田口、岐阜県側の小坂口・濁河(にごりご)口の五本があるが、2014年噴火以降、ルートごとの状況が大きく異なる。最も一般的なのが黒沢口(長野県木曽町)で、御嶽ロープウェイで標高2,150mまで上がり、女人堂・石室山荘・二ノ池を経て剣ヶ峰山頂に至る。ロープウェイ利用で標高差約900m、コースタイムで往復7〜8時間。最も整備が行き届き、山頂直下のシェルターも複数設置されている。

王滝口(長野県王滝村)はかつて田の原までマイカーで入れる手軽さで黒沢口と並ぶ主要ルートだったが、2014年噴火後は王滝頂上から剣ヶ峰までの区間が長く立入規制となり、現在も状況により規制が変動する。出発前に王滝村公式サイトと気象庁の火山情報で最新の規制範囲を必ず確認したい。岐阜県側の濁河口(小坂口)は飛騨側の温泉地・濁河温泉から五の池小屋を経由するルートで、登山者は比較的少なく静かな登山が組める。開田口は古くからの登拝路だが、現在は利用者がごく少ない。

標準的な登山スケジュールは、黒沢口からの日帰りピストン、あるいは二ノ池ヒュッテ・二ノ池山荘・五の池小屋などに一泊する一泊二日。山頂部に複数のカルデラ湖を巡る周遊路を組むなら、山小屋に一泊して二日目に二ノ池・三ノ池・四ノ池を周回する計画も可能だ。御嶽山は山頂のピークハントだけでなく、山頂部のカルデラ湖と火山地形を歩き回ること自体が大きな魅力になっている。

二ノ池、三ノ池 — 火山が作った高所の湖

御嶽山の山頂部には、火山活動が作り出した複数のカルデラ湖が点在する。剣ヶ峰のすぐ北にあるのが二ノ池で、標高2,905m・日本最高所の湖として知られる。2014年噴火で大量の火山灰が流入し、かつての青い湖面は灰色に変わったが、近年は雪解け水で再び水を湛え、御嶽山の山頂景観の中心の一つとして回復しつつある。

三ノ池は山頂部の北側に位置するカルデラ湖で、エメラルドグリーンの透明な水を湛え、御嶽山の中でも最も美しい池として知られる。四ノ池はカルデラ底の湿原状の地形で、その奥に五ノ池がある。これらのカルデラ湖を結ぶ周回路は、剣ヶ峰のピークハントとは別の御嶽山体験を提供してくれる。御嶽山の山頂部を歩くという行為は、3,000mの稜線を歩くと同時に、火山地形そのものを歩くということだ。地下の活動が地表に作り出した複雑な造形が、足元に直接広がる山は、日本でも限られている。

御嶽教、白装束と霊神碑の道

御嶽山の登山道を歩くと、両側に膨大な数の霊神碑——故人の名と没年を刻んだ石碑——が連なる区間に出会う。これは御嶽教・木曽御嶽本教などの講組織の信者が、亡くなった先達を御嶽山の山中に祀ったもので、黒沢口・王滝口の登山道沿いには合計2万基を超える霊神碑が存在するとされる。江戸後期の普寛上人・覚明上人による大衆登拝の道の開拓以来、御嶽山は富士山・立山と並ぶ大衆信仰登山の山となり、今も白装束に金剛杖を持った行者の姿が見られる。

現代の登山者にとっても、霊神碑の連なる登山道を歩く体験は他の3,000m峰では得られない独特のものだ。御嶽山の信仰登山は江戸期から続く生きた伝統で、現在も毎年夏に各地の講が山中で祈祷を行う。一般登山者であっても、登拝の道としての御嶽山の文脈を意識して歩くことで、この山が単なる火山地形のピークではなく、何百年も続いてきた山岳信仰の場であることが立ち上がってくる。

夏の四ヶ月、装備と季節

御嶽山の時期は、無雪期に関しては概ね6月中旬から10月下旬。御嶽ロープウェイは7月初旬から10月下旬の運行で、ロープウェイ運行期間が登山シーズンとほぼ一致する。7月は梅雨明け直後で高山植物の最盛期、8月は最も登山者が多く山小屋の予約が必須、9月後半から10月初旬は紅葉が見頃で晴天率が高い。11月以降は降雪が始まり、御嶽山は完全な冬山に入る。冬季はバックカントリースキーの対象として一定の人気があるが、登山シーズンとは別物の技術領域になる。

御嶽山の服装と装備は、3,000m級の長時間行動を前提に組む。ヘルメットの携行・着用が事実上の必須で、登山届の事前提出も求められる。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴、ザックは日帰りでも20L以上、一泊なら30L以上が標準。火山灰が舞う場面ではマスクとゴーグルがあると便利で、噴火警戒レベルが上がった際の規制範囲・退避経路は事前に必ず確認しておく。気象庁の噴火警戒レベルが「2」以上に上がった場合は登山自体を中止する判断が必要になる。

二ノ池ヒュッテ、五の池小屋、山小屋の現在

御嶽山周辺の山小屋は、2014年噴火で複数が直接被災し、その後再建・営業再開が進んだ。二ノ池ヒュッテは二ノ池の湖畔に立つ歴史ある山小屋で、現在は二ノ池山荘とともに営業を再開している。五の池小屋は岐阜県側の継子岳・摩利支天山方面の登山者の拠点で、瀟洒な木造の建物として知られる。石室山荘は黒沢口の中継点として、女人堂と並ぶ重要な小屋。

御嶽山の山小屋は北アルプスの大型山小屋に比べて規模が小さく、収容人数も限られている。ピーク時の予約は数週間から数ヶ月前に必須で、特に二ノ池ヒュッテと五の池小屋は人気が高い。出発前には小屋の営業状況と噴火警戒レベル、登山道の規制範囲を必ず確認したい。御嶽山の登山計画は、山小屋の予約と火山情報の確認をセットで進めることが、北アルプスの計画とは異なる点になる。

御嶽山の山頂部から見るご来光は、東に南アルプス、西に白山、北に乗鞍岳・北アルプス、南に中央アルプスという、本州中部の主要な山岳がほぼすべて視界に入る。独立峰であるがゆえに周囲の山並みを遮るものがなく、晴天時の眺望は北アルプス・中央アルプスのいずれをも凌ぐ場面がある。二ノ池山荘・二ノ池ヒュッテに前泊して、夜明け前にヘッドランプで剣ヶ峰山頂へ向かう登山者は今も多い。

御嶽ロープウェイ、田の原、濁河温泉 — 三つのアクセス

御嶽山のアクセスは、黒沢口ルートならJR中央本線木曽福島駅から濁河温泉行きバスで御嶽ロープウェイ「鹿の瀬駅」へ約60分、そこからロープウェイで標高2,150mまで7分。マイカーの場合は鹿の瀬駅手前の駐車場まで車で入れる。王滝口ルートは木曽福島駅または上松駅から田の原までバスとタクシーの乗り継ぎ、または王滝村からマイカーで田の原駐車場まで入る。岐阜県側の濁河口は下呂市または高山市からマイカーで濁河温泉まで入るのが一般的で、公共交通でのアクセスは限定的になる。

首都圏からは新宿駅から特急あずさで塩尻、中央本線に乗り継いで木曽福島駅まで約4時間。マイカーなら中央自動車道伊那ICまたは中津川ICから木曽福島経由で3〜4時間。下山後は木曽福島温泉、二本木温泉、岐阜側なら濁河温泉や下呂温泉で汗を流して帰路につく。御嶽山に登るという行為は、活火山の現在進行形の地形に立ち、長く続いてきた信仰登山の道を歩き、戦後最悪の火山災害の現場を踏むという、複数の文脈を一つの山行の中に重ねることになる。それを引き受けて準備するなら、御嶽山は3,000m峰のピークハントとは別次元の体験を提供してくれる。

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