岩手県

岩手山

岩手山(いわてさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

盛岡の街のどこからでも見える北東北の象徴。「南部片富士」と呼ばれる崩れた左肩を抱えながら、東北の高山として今もそびえる活火山。

南部富士、北東北の象徴

岩手山は岩手県の県都・盛岡市の北西にそびえる標高2,038mの活火山で、東北の独立峰のなかでは最も標高が高い。深田久弥は日本百名山のなかでこの山を「東北の盟主」と並んで称し、「南部富士」あるいは「南部片富士」の異名でも知られる。「片」が付くのは、東側から見ると円錐形の整った富士型だが、西側から見ると山体が崩れて非対称になっているためで、この崩れた左肩は火山活動の長い歴史の痕跡でもある。盛岡の街の中心、開運橋から見上げる岩手山の姿は、石川啄木が「ふるさとの山に向ひて言ふことなし、ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ風景でもある。

岩手山ルート、四つの方角からの登り

岩手山ルートは主に4本ある。最も古くから使われ、距離も短いのは南東側の馬返しコース(柳沢コース)(標高約630m発)で、登り約5時間、下り約3時間半。標高差約1,400mと本格的だが、旧道(直登)と新道(迂回・植林帯)の選択肢があり、登りに旧道・下りに新道を組み合わせる周回が定型になっている。

北東側の焼走りコース(標高約560m発)は、1719年の噴火で流下した焼走り溶岩流の上を歩く特異な構成で、登り約4時間半。広大な溶岩台地から見上げる岩手山の山容は、ほかの登山道にはない地質的な迫力を持つ。北西側の網張コース、西側の松川コースは、八幡平方面からの縦走起点としても使われる。マイカーや林道の事情によって登山口の選び方は変わるが、初めての岩手山登山なら馬返しコースが標準とされる。

岩手山アクセスと盛岡からのリズム

岩手山アクセスは盛岡駅を起点に整理できる。東京からは東北新幹線で盛岡駅まで約2時間15分。馬返しコースを使う場合は、盛岡駅前から岩手県交通バスで「馬返し」バス停まで約50分(夏季・登山シーズン限定の運行)。焼走りコースは盛岡駅または雫石駅からタクシーで約40分、または焼走り温泉「いこいの村」を起点にレンタカーで移動する。

マイカーの場合は東北自動車道の盛岡ICまたは滝沢ICから30〜40分で馬返し駐車場、焼走りなら西根ICから20分で焼走り溶岩流駐車場に到達できる。馬返し駐車場は無料・約100台、トイレと水場あり。前夜泊なら盛岡市内のビジネスホテル、雫石温泉郷、または網張温泉の宿が選択肢になる。雫石・網張側に泊まれば、下山後すぐに温泉に浸かれるリズムが組める。

馬返しから山頂、そしてお鉢めぐり

馬返しコースで登る場合、序盤は樹林帯のジグザグ登りが続く。旧道(直登)と新道(迂回路)は二.五合目から分岐し、旧道は火山礫の急斜面を一気に登る構成、新道はやや緩やかな樹林帯を蛇行する構成だ。七合目を過ぎて八合目避難小屋(標高1,760m)に到達すると視界が一気に開け、山頂への最後の登りが見えてくる。

八合目避難小屋から山頂までは約30分、火山礫の道を登り、不動平を経て山頂のお鉢縁に到達する。岩手山の山頂は1.5km周回のお鉢めぐりとして知られ、最高点(薬師岳)は時計回りで一周の半分ほどの位置にある。お鉢は完全な円形ではなく、北側と南側で稜線の幅と高さが変わる。一周は約40分、稜線の風が強い日は無理せず最高点を踏んで折り返す判断も持っておきたい。

岩手山の装備と服装、火山警戒

岩手山の装備は、標高2,038mの東北の独立峰を歩く前提で組む。夏でも山頂気温は10〜15℃、強風時の体感は5℃前後まで下がる。化繊またはメリノの長袖、フリースか化繊インサレーション中間着、防水透湿のレインジャケットとレインパンツ、薄手の手袋、ニット帽までを基本セットとする。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが必須で、馬返し旧道と山頂直下の火山礫斜面ではグリップが効くソールが望ましい。

岩手山の服装は、季節幅を広めに考える。岩手山の時期は7月上旬から10月中旬まで。最盛期は7月から9月で、9月下旬から10月上旬の紅葉が特に評価が高い。八合目避難小屋付近のナナカマドとダケカンバが色づき、八幡平方面の稜線まで見渡せる時期だ。岩手山は気象庁の常時観測火山に指定されており、1998年から2003年にかけて噴火警戒で長期入山規制が敷かれた歴史を持つ。現在は登山が可能だが、出発前に気象庁の噴火警戒情報を確認する習慣はつけておきたい。水場は八合目避難小屋の御成清水のみのため、最低2Lを担ぐ。

八合目避難小屋は7月上旬から10月中旬まで管理人が常駐し、寝具・食事は提供されないが宿泊が可能(協力金制)。馬返しから日帰り往復は健脚で約8時間、八合目で前泊して翌朝に山頂を往復する1泊2日の構成も多くの登山者に選ばれている。山頂直下で東北の朝の光を受ける構成は、東北の百名山のなかで特別な体験になる。

山頂から、八幡平・早池峰・遠く鳥海

岩手山の最高点・薬師岳からは、北西に八幡平の広大な台地、北東に早池峰山、南西に鳥海山と月山、東に北上山地、晴れていれば南東に蔵王連峰までを一望できる。東北の百名山の半数以上を同時に視界に収められる位置に岩手山は立っている。お鉢の内側を見下ろせば、火口縁の地形と火山堆積物の層が露出しており、ここが現役の火山であることを足元から実感できる。

下山後は雫石温泉郷、網張温泉、または焼走り温泉「いこいの村」で湯に浸かる。次に東北の百名山を続けるなら、岩手山から見えた八幡平、早池峰山、鳥海山が自然な選択肢になる。岩手山に登り終えた後、盛岡の街中から再び岩手山を見上げた瞬間に、啄木が「ふるさとの山はありがたきかな」と書いた時の感覚が、少しだけ自分のものとして残っている。

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