上毛三山、群馬のカルデラ
赤城山は群馬県のほぼ中央、前橋市・桐生市・沼田市などにまたがる標高1,828mの成層火山群の総称で、上毛三山(赤城山・榛名山・妙義山)の一座として群馬県のアイデンティティを構成する。「赤城山」という単独のピークは存在せず、最高峰の黒檜山(くろびさん・1,828m)を含む18の峰がカルデラを取り囲む構造になっている。中央に大沼(おの)と小沼(この)の二つのカルデラ湖を持ち、湖畔の赤城神社が古代から続く山岳信仰の中心地として残る。
深田久弥は日本百名山のなかで赤城山を「群馬の象徴」と評し、山名の由来は赤い火山岩肌(中世以降の山岳信仰における朱色の象徴)と説明している。前橋市街地のどこからでも見上げられる位置にあり、「赤城おろし」と呼ばれる冬の北西風の発生源として群馬県南部の気候を決定づける山でもある。
赤城山ルート、黒檜山と駒ヶ岳の周回
赤城山ルートで最も人気が高いのは黒檜山〜駒ヶ岳の周回コースだ。大沼の湖畔・黒檜山登山口(標高1,360m)から登り約1時間20分で最高峰の黒檜山に到達、稜線を南下して駒ヶ岳(1,685m)を踏み、駒ヶ岳登山口に下る。コースタイムは周回約3時間半、距離約5km、標高差約470m。首都圏からの日帰り百名山として最も歩きやすい構成の一つで、登山初心者の入門路としても、紅葉期の定番としても使われる。
より歩き応えのある縦走としては、赤城山ロープウェイ(現在は廃止)跡の鳥居峠から長七郎山・小沼を経由する東部コース、地蔵岳(1,674m・テレビ塔のある山頂)への登り、または黒檜山から鈴ヶ岳への片道縦走(往復4時間)も選べる。短時間で済ませたい場合は地蔵岳のみのピストン(往復2時間半)が最短ルートだが、百名山のチェックポイントは最高峰の黒檜山にあるため、初めて赤城山に登る人は黒檜山〜駒ヶ岳周回が標準とされる。
赤城山アクセスと前橋からのリズム
赤城山アクセスはJR両毛線の前橋駅または上越新幹線の高崎駅を起点に整理できる。東京から高崎駅まで上越新幹線で約50分、高崎駅から両毛線で前橋駅まで約15分。前橋駅北口から関越交通バス「あかぎ広場前」行きで大沼湖畔まで約1時間10分。バスは1日数本のみで、ダイヤを事前に確認しておかないと帰路で困るリスクがある。
マイカーの場合は関越自動車道・赤城ICまたは前橋ICから赤城道路(県道4号)で約1時間、大沼湖畔の無料駐車場(赤城ビジターセンター、覚満淵駐車場、黒檜山登山口駐車場)はそれぞれ数十台。紅葉期の週末以外は混雑することは少ない。前泊なら大沼湖畔の宿(旅館・民宿数軒)または赤城温泉郷の宿が選ばれる。東京を朝7時台に出れば10時には登山口に立てるという距離感は、首都圏の百名山として破格に良い条件だ。
大沼、覚満淵、赤城神社
赤城山の魅力の本体は山頂ではなく、カルデラの中に広がる湖と湿原にある。大沼(おの)は周囲4km、最深部16.5mのカルデラ湖で、湖畔の赤城神社(大洞赤城神社)は朱塗りの社殿が水面に映る構図で知られる。冬季には全面結氷し、ワカサギ釣りの聖地として首都圏から多くの釣り客が訪れる。湖の北東に位置する覚満淵(かくまんぶち)は標高1,360mの高層湿原で、約1時間で一周できる遊歩道が整備されている。湿原は「小尾瀬」とも呼ばれ、ミズバショウ・ニッコウキスゲ・ワタスゲの群生地として登山と組み合わせて訪れる価値がある。
赤城神社は1,800年以上の歴史を持つと伝わる山岳信仰の中心地で、大沼湖畔と山頂の両方に祠が立つ。古くは赤城山自体を御神体として崇拝した古神道の名残が、現在も社殿の配置に見て取れる。山頂直下の岩稜帯では、登山道から少し外れた場所に小さな祠が点在し、信仰の山としての性格を残している。
赤城山の装備と服装、季節
赤城山の装備は、標高1,828mの北関東の独立峰群を歩く前提で組む。夏でも山頂気温は15℃前後、強風時の体感は10℃を切る。化繊またはメリノの長袖、薄手のフリースかウィンドシェル、防水透湿のレインジャケットを基本セットとする。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが必須で、特に黒檜山〜駒ヶ岳の稜線には木の根と岩混じりの急登があり、運動靴では下りで明らかに不便だ。
赤城山の服装は、季節幅を持たせる。赤城山の時期は4月下旬から11月中旬まで、最盛期は5月のアカヤシオ(赤城山のシンボル花)、6月のレンゲツツジ、10月中旬から11月初旬の紅葉の三つ。アカヤシオは標高1,500m以上の稜線で5月上旬から中旬にピークを迎え、赤城山の名物として首都圏から多くの登山者を呼ぶ。冬期(12月から3月)も大沼までは車でアクセス可能で、ワカサギ釣りやスノーシューハイクの対象になる。本格的な雪山登山として黒檜山を目指す人もいるが、北関東の冬山として強風と凍結に対応した装備が必要となる。
赤城山は峠の茶屋やドライブイン文化と切り離せない山でもある。1980〜90年代の走り屋文化、漫画「頭文字D」の舞台としての赤城山下り、現在まで続くワインディング道路の聖地としての性格は、登山者として山に入る前にも頭に残しておくと、車道のドライバーとの距離感が変わる。
黒檜山山頂、関東一望
黒檜山の山頂は岩塊の上に立つ広い平頂で、北側の展望スポット「黒檜大神」まで歩いて約5分。北に谷川岳と上越国境の山々、北東に皇海山・袈裟丸山、東に日光連山と奥日光、南東に筑波山、南に関東平野と東京副都心、南西に富士山、西に浅間山と上信越国境を一望できる。関東平野の北端に位置する赤城山ならではの広い視界が広がり、晴れていれば東京スカイツリーまで肉眼で確認できる日もある。
下山後の温泉は赤城温泉郷(赤城温泉、忠治温泉)が選ばれる。前橋市街地に降りれば富士見温泉や敷島温泉も近い。次に上毛三山の登頂を続けるなら、北西に榛名山、南西に妙義山が自然な選択肢だ。赤城山に登り終えた後、新幹線の車窓から再びこの山を見上げると、「群馬」という地形のスケールの中心がどこにあるのかが、視覚的に納得できているはずだ。