新潟県

妙高山

妙高山(みょうこうさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

新潟の側から見ればきれいな円錐の独立峰。「越後富士」と呼ばれる妙高山は、頸城山塊の中心にそびえる成層火山だ。

越後富士、頸城山塊の主峰

妙高山は標高2,454m、新潟県妙高市にそびえる成層火山だ。妙高戸隠連山国立公園の核心部に位置し、頸城山塊(くびきさんかい)の主峰として君臨する。新潟側の平野部から眺めると山頂が左右対称の円錐形を成すため、「越後富士」の名で古くから親しまれてきた。深田久弥は『日本百名山』で妙高山を取り上げ、頸城山塊の中心としての地位と、火山地形の独特の表情を記述している。山頂は南峰(2,454m・最高点)と北峰(2,446m)の双耳峰で、両峰の間には旧火口の痕跡が明確に残る。

妙高山の登山が他の独立峰と異なるのは、隣に並ぶ火打山(2,462m)とセットで歩くことが多い点だ。火打山は妙高山のすぐ西に位置し、笹ヶ峰登山口から両座を二泊三日で縦走するのが頸城山塊登山の定番になっている。妙高山単独の登山であれば、新潟県側の燕温泉から北地獄谷を詰めるルートが古くからの主要ライン。両座を組み合わせるか単独で踏むかで、妙高山の登山は性格が大きく変わる。

燕温泉ルート、北地獄谷から天狗堂を経て山頂へ

妙高山ルートで最も歴史があるのが、新潟県妙高市の燕温泉(標高1,140m)から北地獄谷を詰めるルートだ。燕温泉から林道を進み、称名滝・光明滝を経て北地獄谷の渓谷に取り付き、麻平・天狗堂を経て山頂に至る。標高差約1,300m、コースタイムで往復8〜10時間。北地獄谷の温泉が湧出する区間では硫黄臭が立ち込め、火山地形そのものを歩いている実感が得られる。

標準的な登山スケジュールは、燕温泉からの日帰りピストン、あるいは天狗堂周辺で休憩を取りつつ一日で登り切る計画。健脚者でも標高差1,300mは負荷が大きく、余裕を見て前夜のうちに燕温泉に泊まり、翌朝早出するのが安全策になる。下山後はそのまま燕温泉の露天風呂(黄金の湯・河原の湯)で汗を流せる立地が、妙高山登山の楽しみのひとつになっている。

笹ヶ峰ルート、火打山と組む二泊三日

もう一本の主要ルートが、長野県側に近い笹ヶ峰登山口(標高1,300m)から富士見平・黒沢池ヒュッテを経て妙高山に登るラインだ。標高差約1,150m、笹ヶ峰から黒沢池ヒュッテまで約4時間、黒沢池ヒュッテから妙高山山頂まで往復約4時間。火打山に登る場合は、同じ笹ヶ峰登山口から富士見平で道を分け、高谷池ヒュッテ経由で火打山山頂を踏む。妙高山と火打山を二泊三日で組む場合は、笹ヶ峰→富士見平→黒沢池ヒュッテで一泊→妙高山往復→高谷池ヒュッテに移動→火打山往復→笹ヶ峰下山、というのが定番のラインになる。

笹ヶ峰ルートは妙高山と火打山の両座を一度の山行で踏めるため、頸城山塊の二大主峰を効率よく回りたい登山者に最も人気の高い選択肢になる。富士見平の登り、黒沢池の湿原、高谷池の湖畔と、変化に富んだ景観を稜線歩きの中で味わえる構成。一泊二日で妙高山だけ・火打山だけを踏む計画も可能で、両座の魅力をどう配分するかで日程が決まる。

高谷池ヒュッテ、黒沢池ヒュッテ — 頸城の二大山小屋

妙高山・火打山周辺の山小屋は、頸城山塊登山の骨格そのものだ。高谷池ヒュッテは火打山の登山道上、標高2,110mの高谷池の湖畔に立つ三角屋根の山小屋。瀟洒な建物と湖畔の立地で知られ、火打山ピストンの拠点として人気が高い。黒沢池ヒュッテは妙高山と火打山の中間、黒沢池の湿原に立ち、両座を二泊三日で組む登山者の中継拠点として機能する。両小屋とも収容人数は限られており、ピーク時の予約は数週間から数ヶ月前に必須。

燕温泉ルートを使う場合は、燕温泉の温泉宿(樺太館・燕ハイランドロッジなど)に前泊して翌朝早出する形が一般的。北アルプスや八ヶ岳のような稜線上の山小屋ネットワークはなく、笹ヶ峰ルートの高谷池・黒沢池ヒュッテが頸城山塊で頼れる主要な山小屋になる。妙高山の登山計画は、これらの小屋の予約状況から逆算して組むのが現実的だ。

燕温泉、黄金の湯 — 下山後の温泉文化

妙高山の登山を語るうえで、燕温泉の存在は欠かせない。燕温泉は妙高山の北中腹、標高1,100m台に湧く山岳温泉地で、北地獄谷の地熱を源泉とする硫黄泉。「黄金の湯」「河原の湯」と呼ばれる二つの無料露天風呂が温泉街の外れに整備されており、登山者は下山後そのまま温泉に浸かれる構造になっている。

燕温泉の温泉宿は規模は小さいが、登山者向けの夕食と朝食を提供する宿が複数あり、前夜泊・後泊の選択肢が確保されている。妙高山に登るという行為は、北地獄谷の火山地形を辿って山頂を踏み、下山後に同じ火山が湧かせている温泉に浸かるという、火山地形を「登り」と「浴」の両面で体験する一日になる。北アルプスのような縦走の壮大さはないが、独立峰の登山に温泉文化が組み込まれている点で、妙高山は他の山にはない密度を持つ。

夏の四ヶ月、装備と季節

妙高山の時期は、無雪期に関しては概ね6月中旬から10月下旬。7月は梅雨明け後の高山植物の最盛期、8月は最も登山者が多くピーク、9月後半から10月上旬は紅葉が見頃で晴天率が比較的高い。11月以降は降雪が始まり、妙高山は本格的な雪山に入る。冬季の妙高山はバックカントリースキー・スノーボードの一大フィールドとして国内有数の人気を持ち、妙高高原はパウダースノーの聖地として外国人スキーヤーにも知られている。ただし冬の妙高山の登山は雪崩・吹雪・気象急変のリスクが高く、上級者の領域になる。

妙高山の服装と装備は、2,400m級の長時間行動を前提に組む。燕温泉ルートの場合は標高差1,300mの長い登りに対応する体力が必要で、北地獄谷の渓流横断では足元が濡れる場面もある。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴、ザックは日帰りでも25L以上、一泊なら30L以上が標準。天狗堂から山頂直下の鎖場ではヘルメットの携行が推奨される。夏でも山頂部の朝晩は5〜10℃まで下がるため、薄手のダウンか厚手のフリースを携行したい。

妙高山の山頂から見る朝の景色は、新潟の平野部から日本海まで一望に収める広大な構図になる。東に苗場山と上越国境の山々、南に火打山と高谷池、西に北アルプス後立山連峰、北に頸城平野と日本海。新潟の街明かりが眼下に広がる夜景は、内陸の山岳では決して得られない景観で、黒沢池ヒュッテに泊まる登山者がこの時間を狙って山頂に登り返すことも珍しくない。

妙高高原駅、燕温泉、笹ヶ峰 — 二つの起点へのアクセス

妙高山のアクセスは、しなの鉄道妙高高原駅または関山駅から起点に応じてバスとタクシーで分かれる。燕温泉ルートの起点は燕温泉で、関山駅から路線バスで約30分。マイカーの場合は燕温泉の温泉街の駐車場まで車で入れる。笹ヶ峰ルートの起点は笹ヶ峰登山口で、妙高高原駅から路線バス(夏季限定)で約1時間。マイカーの場合は笹ヶ峰の駐車場まで車で入れるが、ピーク時は駐車場が早朝に満車になるため、夜のうちに到着するか平日の利用が安全策になる。

首都圏からは北陸新幹線で長野駅まで約1時間半、しなの鉄道で妙高高原駅まで約50分、関山駅まで約1時間。マイカーなら上信越自動車道妙高高原ICから約30分。下山後の温泉は、燕温泉ルートなら下山口の燕温泉、笹ヶ峰ルートなら帰路の関温泉・赤倉温泉・池の平温泉などの妙高高原の温泉郷で汗を流せる。妙高山の登山は「温泉地から登り、温泉地に下りる」という、火山地形と温泉文化が一体となった山行を体験できる稀有な山行になる。

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