茨城県

筑波山

筑波山(つくばさん)

画像:Wikipedia(CC BY-SA)

関東平野にぽつんと立つ双耳峰。標高は877m、日本百名山の中で最も低い山でありながら、関東平野の象徴として長く愛されてきた山。

関東平野の双耳峰、日本百名山で最も低い山

筑波山は標高877m、茨城県つくば市・桜川市・石岡市にまたがる関東平野唯一の独立峰だ。山頂は男体山(871m)と女体山(877m)の双耳峰を成し、両峰の間に御幸ヶ原と呼ばれる平坦地が広がる。日本百名山の中で最も標高が低い山として知られ、深田久弥は『日本百名山』で筑波山を取り上げる際、標高ではなく歴史と文化的な位置づけによって百名山に値する山として明確に位置づけた。

筑波山の特徴は、関東平野という広大な平地の中に独立してそびえる地形にある。周囲を遮るものが何もないため、関東平野のどこからでも筑波山の姿が見え、「西の富士、東の筑波」として古くから富士山と対をなす山として並び称されてきた。万葉集にも複数の歌が収められており、奈良時代から既に名山として認識されていた。標高は決して高くないが、関東平野における筑波山の文化的・地理的な位置づけは、北アルプスや南アルプスの3,000m峰と比較しても引けを取らない。

男体山と女体山、御幸ヶ原を挟む双耳峰

筑波山の山頂は二つの峰からなる。西側の男体山(871m)と東側の女体山(877m)で、両峰の間に御幸ヶ原(みゆきがはら)と呼ばれる平坦地が広がる。最高点は女体山だが、信仰の中心は男体山と女体山の両方にあり、それぞれ筑波山神社の本殿が祀られている。御幸ヶ原は筑波山ケーブルカーの山頂駅もあり、登山者と観光客が交差する筑波山の中心拠点として機能している。

両峰の間は徒歩約15分で結ばれており、男体山と女体山の両方を踏むのが筑波山登山の標準形になる。男体山の山頂は岩塊が露出し、関東平野を西側に俯瞰する構図、女体山の山頂はさらに広く、晴天時は東京スカイツリー・富士山・東京湾までを一望できる。標高877mとは思えない広大な眺望が、筑波山の魅力の中核を成している。

御幸ヶ原コース、白雲橋コース、おたつ石コース

筑波山ルートは主に三本ある。最も標準的な御幸ヶ原コースは筑波山神社(標高270m)から男体山と御幸ヶ原を直登するルートで、ケーブルカーと並走する形で登山道が整備されている。標高差約600m、コースタイムで登り2時間・下り1時間半。筑波山の登山道としては最も短く、家族連れや初心者でも歩きやすい。途中の中ノ茶屋跡や男女川(みなのがわ)源流など、見どころも豊富だ。

もう一本が白雲橋コースで、筑波山神社から女体山に至るルート。標高差約600m、コースタイムで登り2時間半。途中にある奇岩・巨石(弁慶七戻り・出船入船・国割り石・北斗岩など)の景観で知られ、筑波山の地形的な見どころが集中している。三本目がおたつ石コースで、東側のつつじヶ丘(筑波山ロープウェイ起点)から女体山に直登するルート。標高差約300m、コースタイムで登り1時間と短いが、急登が連続する。

標準的な計画は、筑波山神社から御幸ヶ原コースで男体山へ、御幸ヶ原を経て女体山へ、白雲橋コースで筑波山神社に戻る周回。コースタイムで4〜5時間、距離約6kmの一日コース。ケーブルカーやロープウェイを片道に利用する計画も組みやすく、体力や時間に応じて多様な組み方ができるのが筑波山の特徴だ。

筑波山神社、千年以上続く信仰の山

筑波山の登山を語るうえで、筑波山神社の存在は欠かせない。筑波山神社は男体山頂上の本殿、女体山頂上の本殿、そして山麓の拝殿の三宮構造を持つ古社で、創建は紀元前と伝えられ、関東地方でも最古級の神社とされる。延喜式神名帳にも記載される由緒ある神社で、男体山は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、女体山は伊弉冊尊(いざなみのみこと)を御祭神とする。二柱の神を双耳峰の二つの山頂に祀る構造は、筑波山が「夫婦の山」として信仰されてきた歴史を反映している。

筑波山の信仰は、平安時代の歌垣(うたがき)の風習でも知られる。男女が筑波山に集って歌を交わし、縁を結ぶ場として『常陸国風土記』『万葉集』にも記録される。現代の登山者にとっても、筑波山に登るという行為は、関東平野で最も古い信仰の山を踏むことと結びついている。山頂の本殿に手を合わせる登拝の所作は、奈良時代から千年以上連続して受け継がれてきたものだ。

弁慶七戻り、出船入船 — 奇岩と巨石

筑波山の山頂部、特に白雲橋コースには、長い年月の風化が作り出した奇岩・巨石が連なる区間がある。弁慶七戻り(べんけいななもどり)、出船入船(でふねいりふね)、国割り石(くにわりいし)、母の胎内くぐり、北斗岩、屏風岩、大仏岩、裏面大黒といった名のついた岩々が次々と現れる。それぞれに伝承があり、巨石信仰の対象として古くから親しまれてきた。

これらの奇岩は筑波山の山体を構成する花崗閃緑岩が長い年月の風化で作り出した自然の造形で、岩肌の質感や形状が非常に特徴的だ。筑波山が単なる「関東平野の独立峰」ではなく、地形そのものに見るべきものを持つ山であることを、これらの奇岩は実感させてくれる。白雲橋コースを歩くなら、奇岩の前で立ち止まる時間も含めて余裕のある計画で歩きたい。

ケーブルカーとロープウェイ、もう一つの登り方

筑波山にはケーブルカーとロープウェイの二つの交通機関があり、登山と組み合わせて様々な計画が組める。筑波山ケーブルカーは筑波山神社近くの宮脇駅から御幸ヶ原山頂駅までの約8分の運行で、男体山へのアクセスを大幅に短縮する。筑波山ロープウェイは東側のつつじヶ丘駅から女体山駅までの約6分の運行で、女体山へのアクセスを担う。両者とも約20分間隔で運行され、季節限定のイベント(夜のロープウェイ、星空観賞など)も実施されている。

観光客と登山者が混在する筑波山特有の登り方として、「登りはケーブルカー、下りは登山道」あるいはその逆を組む計画が人気を集めている。家族連れや初心者には登りでケーブルカーを使い、御幸ヶ原から男体山・女体山を踏んで下山道で下る計画が標準。健脚者は両方の山頂を踏んだ後、別ルートで下山する縦走的な歩き方を組める。筑波山の懐の深さは、この交通機関と登山道の組み合わせ自由度の高さにある。

通年登山の山、季節と装備

筑波山の時期は、標高877mと低いため通年登山可能だ。春は梅の時期(2月)から桜の時期(4月)が美しく、夏は新緑、秋は紅葉、冬は晴天率が高く晴天時は山頂から雪化粧した富士山がはっきりと見える。ケーブルカー・ロープウェイは年末年始の点検期間を除いて通年運行。夏季は夕立に注意、冬季は山頂部で凍結することがあるため軽アイゼンの携行があると安心。

筑波山の服装と装備は、標高は低いがそれでも山岳の基本装備を整えたい。フリースまたは中綿入りジャケットと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはトレッキングシューズかミッドカット以上の登山靴。ザックは日帰りなら15〜20Lで十分。白雲橋コースの奇岩区間は段差の大きい岩場が連続するため、足元のグリップが効くシューズが必須。ケーブルカーやロープウェイを片道に使う計画なら、運行時間の最終便(17時前後)に間に合うように下山計画を組む。

女体山の山頂から見る関東平野の夜景は、筑波山ならではの景観として知られる。秋から冬の晴天時には、筑波山ロープウェイが夜間運行を実施する日があり、つつじヶ丘から女体山まで上がって夜景と星空を楽しむことができる。標高は低いが、関東平野の中央に独立してそびえる地形ゆえ、東京方面・水戸方面・鹿島灘方面と360度の夜景が広がる。新月期の冬の夜は天の川も視認できる場合がある。

つくばエクスプレス、首都圏から最も近い百名山

筑波山のアクセスは、つくばエクスプレスつくば駅から関東鉄道バスで筑波山神社入口・つつじヶ丘まで約40〜50分。つくばエクスプレスは秋葉原駅から筑波山シャトルバスとの直通ルートで、ピーク時は最速で都心から1時間半以内に登山口に到着できる。マイカーの場合は筑波山神社周辺の駐車場、またはつつじヶ丘駐車場に車を停めて登山する。駐車場はピーク時の朝に混雑するため、早朝の到着が安全策。

首都圏からは秋葉原駅からつくばエクスプレスで45分、そこからバスで約50分の合計約2時間。首都圏から最もアクセスしやすい日本百名山として、子供連れの家族登山から初心者の入門山として、年間を通じて多くの登山者を集める。下山後は筑波山温泉郷の日帰り湯(つくば湯、江戸屋など)で汗を流し、つくば市内に戻ってから帰路につく登山者が多い。筑波山の登山は、関東平野の真ん中にある独立峰に登るという、北アルプスや八ヶ岳とはまったく違う種類の山岳体験を提供してくれる。標高は低くとも、文化と眺望の密度では他の名山に引けを取らない山だ。

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