薩摩富士、海岸線の独立円錐峰
開聞岳は標高924m、鹿児島県指宿市にそびえる成層火山だ。霧島錦江湾国立公園の南端に位置し、薩摩半島の南端、東シナ海に面した海岸線から直接立ち上がる独特の地形を持つ。山頂部から麓まで均整の取れた円錐形を成すため、「薩摩富士」の愛称で古くから親しまれてきた。深田久弥は『日本百名山』で開聞岳を取り上げ、海から直接立ち上がる独立峰の地形と、九州南端の特異な位置を高く評価した。標高924mは日本百名山の中でも下位に位置するが、海岸線からの相対的な突出感は3,000m峰に引けを取らない。
開聞岳の登山道は他の山にはない独特の構造を持つ。山の一周を螺旋状に巻きながら高度を上げていく登山道で、登山者は登りの過程で山の四方の景色を順次見ることになる。最初は東側の指宿市街、次に北側の池田湖と桜島、続いて西側の東シナ海、最後に南側の屋久島・佐多岬という、九州南端の景観を一山分歩きながら回収できる稀な構造だ。
螺旋状の登山道、二合目から山頂まで
開聞岳のルートはほぼ一本に集約される。かいもん山麓ふれあい公園(標高約100m)を起点に二合目登山口から登り始め、九合目を経て山頂に至る。標高差約824m、コースタイムで登り3時間・下り2時間、往復5時間程度の一日コース。九合目までは樹林帯と灌木帯を抜け、九合目以上で岩稜帯に変わる。登山道は合目ごとに区切られ、ペース管理がしやすい。
螺旋状の登山道のため、樹林帯を歩いている時間が長く、山頂直下の九合目以上で初めて視界が一気に開ける構成になっている。山頂は岩塊が積み重なった狭い空間で、360度の眺望が広がる。南には屋久島と種子島、東には大隅半島と佐多岬、北には池田湖と桜島の噴煙、西には東シナ海と長崎方面という、九州南端ならではの広大な構図だ。山頂滞在時間を長めにとって、四方の景色を順番に味わうのが開聞岳登山の楽しみになっている。
通年登山の山、季節と装備
開聞岳の時期は通年。標高924mで雪が積もることは稀で、九州南端の温暖な気候により一年中登山可能。3月から5月の春、10月から12月の秋は最も登山に適した季節で、晴天時には屋久島の宮之浦岳まで視界に入る。夏季は標高1,000m未満で気温が30℃を超える日があり、熱中症対策が螺旋状の長い登りでは死活問題になる。雨の多い梅雨期(6〜7月)と台風シーズン(8〜9月)は天候判断が必要。
開聞岳の服装と装備は、標高は低いが本格的な一日登山として組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはトレッキングシューズまたはミッドカット以上の登山靴。ザックは日帰りなら15Lで十分。九合目以上の岩稜帯は急峻で、ヘルメットの携行があると安心。下りで膝への負担が大きいため、トレッキングポールがあると膝の摩耗を防げる。山頂は風が強い日が多いため、薄手のウィンドシェルを携行したい。
開聞岳の山頂から見るご来光は、東に大隅半島の山並みと太平洋、北に桜島の噴煙、南に屋久島が浮かぶという、本州の山では決して得られない九州南端独特の構図になる。麓のかいもん山麓ふれあい公園キャンプ場に前泊して未明から登り始めれば、山頂で朝を迎える計画も組める。新月期の夜は山頂から見る星空が東シナ海の暗闇と組み合わさり、開聞岳ならではの星空観望地として知られる。
JR山川駅、指宿駅からのアクセス
開聞岳のアクセスは、JR指宿枕崎線開聞駅から徒歩で約15分、または山川駅・指宿駅からタクシーで約20分。マイカーの場合はかいもん山麓ふれあい公園の駐車場まで車で入れる。指宿の砂むし温泉と組み合わせた一日プランが定番で、朝に開聞岳を登って下山後に指宿の温泉で汗を流す流れが人気だ。
首都圏からは飛行機で鹿児島空港まで約100分、空港から指宿まで車で約90分、または鹿児島中央駅から指宿枕崎線で開聞駅まで約2時間。九州南端の独立峰として、観光と登山を組み合わせやすい立地が開聞岳の魅力を支える。下山後は指宿温泉(砂むし温泉)、池田湖、長崎鼻、知覧などの薩摩半島南部の観光地を組み合わせて一日を組むのが定番。開聞岳に登るという行為は、九州南端の海岸線から立ち上がる独立峰を一周しながら登る稀な体験であり、山頂から南海の島々を見渡す九州ならではの一日になる。