西日本最高峰、四国の中央
石鎚山は四国・愛媛県西条市と久万高原町の境にそびえる標高1,982mの山で、天狗岳・弥山(みせん)・南尖峰の三つのピークの総称である。最高点は天狗岳の1,982m、その南西の弥山には石鎚神社頂上社が立つ。西日本最高峰という地理的事実と、日本七霊山の一つとして1,300年以上続く山岳信仰の対象であるという文化的位置づけが重なり、四国の登山対象としても巡礼地としても、ほかに代わりのきかない存在になっている。深田久弥は日本百名山のなかでこの山を「鎖の山」として記している。
成就社ルートと土小屋ルート、石鎚山ルート二択
石鎚山ルートは事実上2本に絞られる。北側の成就社ルートは石鎚登山ロープウェイで山頂成就駅(標高1,300m)まで上がり、成就社を経由して山頂を目指す古典的な巡礼路で、コースタイムは登り約3時間、下り約2時間半。途中、試しの鎖・一の鎖・二の鎖・三の鎖の合計4本の鎖場が現れる構成で、修験道の名残を最も色濃く残す。
南東側の土小屋ルートは石鎚スカイラインで標高1,492mの土小屋まで車で上がれるため、累積標高差が500m程度と最も小さい。コースタイムは登り約2時間半、下り約2時間。鎖場は二の鎖と三の鎖のみで、巻き道(迂回路)も完備されている。鎖を体験したい登山者は成就社、距離と難度を抑えたい登山者は土小屋、それぞれが標準的な選び方になる。両ルートは三の鎖の手前で合流し、最終的に弥山に至る。
石鎚山アクセスとロープウェイ
石鎚山アクセスは、松山空港または松山駅を起点とするのが一般的だ。成就社ルートを使う場合はJR伊予西条駅からせとうちバスで石鎚ロープウェイ前まで約1時間、ロープウェイで山頂成就駅へ8分。土小屋ルートを使う場合はJR松山駅からせとうちバスで土小屋まで約3時間(夏期のみ運行)。マイカーであれば松山自動車道いよ西条ICまたは松山ICから、石鎚スカイラインまたは石鎚登山ロープウェイ駐車場までそれぞれ約1時間半。
石鎚スカイライン(土小屋までの県道)は11月末から4月中旬まで冬季閉鎖となる。冬期の土小屋ルートは事実上閉ざされ、雪山登山として成就社ルートのみが残る。一方、石鎚ロープウェイは年末年始を除き通年運行しており、冬の樹氷を見るために冬季限定で訪れる登山者も多い。
鎖を握る山、石鎚山の装備と服装
石鎚山の装備で特徴的なのは、鎖場を握る前提で組むという点だ。三の鎖は全長約68mと日本の登山道のなかでも最長級で、傾斜は60度を超える区間もある。両手が確実に空くようにザックの収納を整え、ストックは鎖場に入る前にしまう。革手袋または滑り止め付きのフィット感のある手袋があると、鎖の握りが格段に楽になる。鎖場が不安な人のために、各鎖場には巻き道(迂回路)が用意されており、巻き道を使っても山頂には到達できる。
石鎚山の服装は、標高1,982mの稜線の風を考慮して組む。夏でも山頂気温は15℃前後、強風時の体感は10℃を切る。化繊またはメリノの長袖、薄手のフリースかウィンドシェル、防水透湿のレインジャケットを基本セットとする。靴はくるぶしを覆うトレッキングシューズが必須で、特に鎖場では足首の安定が必要になる。水場は成就社ルートでは試しの鎖の手前にあるが、土小屋ルートでは登山道に水場がないため、最低1.5Lを担ぐ。
石鎚山の時期、お山開きと紅葉と樹氷
石鎚山の登山時期は4月下旬から11月中旬まで。最盛期は7月から10月で、特に毎年7月1日から10日に開催される石鎚山お山開き大祭は1,300年以上続く修験道の行事で、白装束の信者が御神体を担いで登拝する伝統的な姿が見られる。この期間は登山道が混雑し、宿坊や山小屋も予約が必要になる。
10月中旬から11月上旬の紅葉は、石鎚山のもう一つの最盛期だ。標高1,500m以上のブナ・ナナカマド・ダケカンバが赤と黄に染まり、山頂直下から見下ろす石鎚スカイラインのカエデが特に美しい。12月から3月の冬季には樹氷と霧氷が稜線を覆い、ロープウェイで訪れる冬山登山者の対象になる。冬の石鎚山は積雪と凍結が混在する本格的な雪山であり、夏のハイキングの延長で考える範疇にない。
石鎚神社中宮成就社は前夜泊できる宿坊として登山者にも開かれている。標高1,300mで夜空が暗く、夏の星空と西の瀬戸内海の漁火を同時に眺められるロケーションは、四国でもここしかない。
弥山、天狗岳、そして瀬戸内と太平洋
成就社ルート・土小屋ルートのいずれも、最終的には弥山(1,974m)に到着する。ここに石鎚神社頂上社が立ち、夏季には頂上山荘も営業している。最高点の天狗岳(1,982m)は弥山から東に伸びる岩稜の先にあり、両側が切れ落ちた幅1m前後のナイフリッジを10分ほど歩いて到達する。鎖場と並んで、ここが石鎚山のクライマックスになる。岩場の足運びに不安がある人は弥山で折り返す判断も持っておきたい。
山頂からは、北に瀬戸内海と燧灘、東に剣山、南には四国山地を越えて太平洋まで、晴天時には四国を縦断する視界が広がる。下山後の温泉は土小屋ルートなら面河渓を経て本谷温泉、成就社ルートなら西条のしまなみ温泉やひうちが選ばれる。次の四国の山を歩くなら、徳島県の剣山(つるぎさん・1,955m)との「四国百名山セット」が定型のステップアップで、石鎚の鎖と剣山の穏やかな笹原は対照的な性格を持つ。