日本三霊山、北陸の主峰
白山は石川県白山市・岐阜県大野郡白川村・福井県大野市にまたがる山岳群で、最高峰の御前峰(2,702m)を中心に、大汝峰(2,684m)・剣ヶ峰(2,677m)・別山(2,399m)の四峰で構成される。白山国立公園の核心部に位置し、富士山・立山と並ぶ日本三霊山の一つとして古くから信仰の対象だった。深田久弥は『日本百名山』で白山を北陸を代表する山として位置づけ、その独立性と火山地形、そして豊富な高山植物相を強調した。
白山の信仰史は1,300年以上に及ぶ。717年(養老元年)、越前の僧・泰澄(たいちょう)上人が白山に登拝し、白山の三所権現を感得したとされる。これが白山信仰の起源となり、北陸三県(石川・福井・岐阜)に白山信仰が広がる起点となった。山麓には全国約3,000社の白山神社の総本社・白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ、石川県白山市三宮町)が立ち、現在も白山信仰の中心として機能している。白山に登るという行為は、1,300年続いてきた登拝の道を踏むことと不可分になっている。
別当出合、砂防新道と観光新道
白山ルートで最も標準的なのが、石川県側の別当出合(標高1,260m)を起点とするルートだ。別当出合からは砂防新道(さぼうしんどう)と観光新道(かんこうしんどう)の二本が分かれ、両者を組み合わせて周回する計画が定番。砂防新道は中飯場・甚之助避難小屋・南竜分岐・黒ボコ岩を経て弥陀ヶ原を縦断し室堂に至る、整備が行き届いた歩きやすい道。観光新道は別当坂分岐・殿ヶ池避難小屋・蛇塚を経て黒ボコ岩で砂防新道と合流する、稜線歩きと花畑が主体のスケニックなルート。
標準的な計画は、別当出合から砂防新道で室堂まで上がって一泊、二日目に御前峰山頂を踏んで観光新道で別当出合に下る一泊二日。標高差約1,440m、コースタイムで一日目4〜5時間、二日目5〜6時間。健脚者は日帰り強行も可能だが、室堂の山小屋に一泊して御前峰のご来光を見るのが白山登山の定石になっている。別当出合周辺は7月から10月の登山シーズン中、マイカー規制が敷かれ、市ノ瀬ビジターセンターからシャトルバスで別当出合に入る。
御前峰・大汝峰・剣ヶ峰 — お池めぐり
白山の山頂部には、火山活動が作り出した複数のカルデラ湖が点在する。御前峰の北側に広がる火口跡には翠ヶ池(みどりがいけ)、紺屋ヶ池、油ヶ池、千蛇ヶ池、五色池、百姓池、血ノ池の七つの池が散在し、御前峰・大汝峰・剣ヶ峰の三峰の周囲を一周する道は「お池めぐり」と呼ばれ、白山登山の核心的な見どころになっている。室堂から御前峰山頂までは徒歩約50分、御前峰から大汝峰・剣ヶ峰を回ってお池を巡り室堂に戻る周回は約3時間。
御前峰の山頂には白山比咩神社の奥宮が立ち、登拝者は山頂の祠に手を合わせて朝を迎える。山頂からの眺望は、東に北アルプス槍・穂高連峰、南に伊吹山と御嶽山、西に日本海と能登半島、北に立山連峰という、北陸の中心に立つ独立峰ならではの広大な構図だ。お池めぐりと御前峰のご来光は、白山登山の二大体験として、登山者の記憶に残る。
ハクサンコザクラ、白山の名を持つ植物たち
白山の山頂部は、「白山」を名に持つ高山植物の宝庫として知られる。ハクサンコザクラ、ハクサンイチゲ、ハクサンフウロ、ハクサンチドリなど、白山で発見・命名された植物は数十種類に及び、これらの植物は本州中部の高山帯全体に分布するが、その学名上の基準産地は白山にある。7月中旬から8月上旬の最盛期には、弥陀ヶ原・室堂平・お池めぐりの稜線が花畑となり、北アルプスや南アルプスの花畑と肩を並べる景観を形作る。
高山植物の踏み荒らしは深刻な問題で、白山では稜線部に木道と保護ロープが整備されている。室堂から御前峰・お池めぐりの区間では、登山道から外れて植生帯に踏み込むことは厳禁とされている。白山に登るという行為は、日本の高山植物相の中心地の一つを歩くことでもあり、植物保護のマナーを遵守することが登拝者・登山者双方に求められている。
室堂、白山の中心拠点
白山の登山拠点となるのが、室堂平に広がる室堂センター(白山室堂)だ。御前峰山頂の南直下、標高約2,450mに立つ大型の山岳宿泊施設で、収容人数は約750名と日本の山小屋でも最大級。夕食・朝食付きの宿泊、売店、診療所、白山雷鳥荘などの周辺施設も含めて、白山登山の中心拠点として機能している。ピーク時の予約は数週間前から必須で、特にお盆と紅葉期は数ヶ月前に満室になる。
白山には室堂のほかに、別当出合・甚之助避難小屋・南竜山荘・別山避難小屋などの中継拠点がある。南竜山荘は別山方面・南竜分岐への分岐点で、白山と別山を組み合わせて縦走する登山者の中継拠点。一泊二日の標準計画なら室堂泊のみで十分だが、白山と別山の両座を踏む二泊三日の計画では、室堂と南竜山荘の二泊を組むことが多い。
御前峰の山頂から見るご来光は、白山登山の最大の体験として知られる。室堂から未明にヘッドランプで出発し、御前峰山頂に立って朝を迎える光景は、白山信仰の登拝者と現代の登山者が同じ場所で同じ時間を共有する稀な瞬間だ。御前峰の山頂で太陽が北アルプスの稜線越しに昇る時間帯、雲海の上に立山連峰と北アルプスがオレンジに染まる構図は、白山登山の象徴的な一枚として記憶される。
夏の三ヶ月、季節と装備
白山の時期は、無雪期に関しては概ね7月から10月初旬。別当出合のシャトルバスが7月初旬から10月中旬の運行で、運行期間外は登山口へのアクセスが事実上閉ざされる。7月中旬から8月上旬は高山植物の最盛期、8月は最も登山者が多くピーク、9月後半から10月初旬は紅葉が見頃で晴天率が高い。冬季の白山は豪雪地帯となり、室堂の営業も終了。冬季登山は完全な雪山登山の領域で、上級者のみの対象になる。
白山の服装と装備は、2,700m級の長時間行動を前提に組む。フリースと防風防水のレインウェアは省けず、シューズはミッドカット以上の登山靴、ザックは一泊二日でも30L以上が標準。夏でも山頂の朝晩は5〜10℃まで下がるため、薄手のダウンか厚手のフリースを携行したい。雷雨のリスクが高い午後に稜線にいることは避け、室堂から未明に御前峰へ向かう計画が定石。別当出合のマイカー規制と市ノ瀬ビジターセンターのシャトルバスは出発前に必ず確認したい。
金沢、福井、白川郷からのアクセス
白山のアクセスは、石川県側からはJR北陸本線金沢駅から北陸鉄道バス・別当出合線で別当出合まで約2時間(シーズン中の直通便、または市ノ瀬で乗り換え)。マイカーの場合は市ノ瀬ビジターセンターまで車で入り、そこからシャトルバスで別当出合へ。福井県側からは大野市・勝山経由でアクセス可能。岐阜県側からは白川郷・大白川温泉からの登山道(平瀬道)もある。首都圏からのアクセスは北陸新幹線の延伸で大幅に短縮され、東京から金沢まで約2時間半で到達可能になった。
下山後は白山市の鶴来温泉、小松市の粟津温泉、福井県側なら鳩ヶ湯温泉などで汗を流して帰路につく。白山登山と金沢観光・白川郷観光を組み合わせた北陸の旅として、白山は北陸地方の旅程の核心になることが多い。白山に登るという行為は、日本三霊山の一つに踏み入り、1,300年続いた登拝の道を歩くことであり、北陸の主峰の山頂から日本海と北アルプスを一度に見渡すことでもある、北陸ならではの密度を持つ一日になる。