三重県

御在所岳

標高1,212m。鈴鹿山脈の主峰は、花崗岩が削り残されてできた岩を山肌じゅうに立てている。索道が15分で山上へ運ぶ一方、その岩を辿る道はいま静かに閉じている。

鈴鹿の主峰、削り残された岩の山

御在所岳は三重県三重郡菰野町と滋賀県の境に立つ標高1,212mの山で、鈴鹿山脈の主峰として扱われてきた。山頂部にある三角点「御在所山」の標高は1,209.37m。1968年7月に指定された鈴鹿国定公園の中核をなし、日本二百名山にも数えられる。菰野山、あるいは御産所之嶽という別名でも呼ばれ、修験者によって開かれた山とされる。山頂には御嶽神社が祀られ、開山は明治元年にあたる1868年。信仰の山としての来歴が、観光地としての現在の顔の下にそのまま残っている山だ。

この山の性格を決めているのは花崗岩である。地下深くで固まった花崗岩の塊が隆起し、長い時間をかけて侵食を受け、脆い部分が流され、硬い塊だけが山肌に立ち残った。結果として御在所岳には、標高1,200m級の山としては不釣り合いなほどの岩が露出している。数字から想像する山容と、実際に目の前に現れる岩の量が一致しない。これが多くの登山者にとっての第一印象になる。カモシカやキリシマミドリシジミが棲む森の上に、削り残された岩がぽつぽつと並んでいる。

奇岩の道が閉じているあいだに

御在所岳のルートは複数あり、代表的なのは中道・裏道・表道の三本。山と溪谷オンラインは、山頂までいずれも約3時間としている。このうち最も人を集めてきたのが中道で、負ばれ岩(おばれ岩)、地蔵岩、立岩といった名のついた岩を順に通り、キレットと呼ばれる切れ込みを越えて山上へ抜ける。景色のついでに岩があるのではなく、岩を見るために通す道、と言っていい。

その中道が、いま通れない。菰野町観光協会は2025年8月21日付で、おばれ岩に崩落の危険が生じたとして立入禁止を告知し、「中登山道以外の道への迂回をお願いいたします」と呼びかけている。本稿で確認した2026年9月時点でも、この告知は取り下げられていない。二枚の巨岩が互いに寄りかかって立つという、写真に撮られ続けてきたあの独特の形が、そのまま不安定さの理由でもあったということになる。

御在所岳 登山を中道前提で組んでいた人は、日付だけ残して道を差し替えるのではなく、行程の組み立て自体を見直したほうがいい。中道は乾いた岩を辿る道、裏道は水の音の絶えない谷の道で、一日の中身がまるで違う。「代わりの道」ではなく「別の山行」として立て直すほうが、結果として満足度は高くなる。

谷を辿る裏道と、藤内壁の下で

裏道は沢沿いを長く辿り、藤内小屋を経由して山上へ抜ける道である。その途中、藤内沢出合から入るのが藤内壁で、ロッククライミングとアイスクライミングの対象として全国に名の通った岩場だ。登山道を歩いていると、頭上の壁に取り付いた人影が見えることがある。御在所岳が「登る山」と「攀じる山」の二つの顔を同時に持っていることが、この区間で最もはっきりと分かる。稜線を目指す者と、垂直の岩を見上げる者が、同じ谷の中ですれ違っていく。

一方で、谷沿いであることはそのまま脆さでもある。2008年の豪雨では山腹を横断する鈴鹿スカイラインが大規模に崩れた。その災害復旧工事のため、表登山道(山頂〜表道登山道口)と峠谷登山道(武平峠〜表道登山道口)は2009年11月から2011年3月まで閉鎖されている。御在所ロープウエイが公式サイトに掲げている登山道図は、このときの案内図だ。中道を「登山可能」と記したままの図が、おばれ岩の立入禁止と並んで公式サイト上に残っている。

だから、この山で確かめるべきは図ではなく日付のある告知のほうになる。菰野町観光協会のお知らせと、ロープウエイが山上の気温とあわせて日々更新している運行状況。公式サイトに案内図があることは、その区間が今日通れることを意味しない。三本の主要路のほかに一ノ谷新道、長石尾根、三ツ口谷といった道も図には描かれているが、いずれも同じ前提で読む必要がある。

最短で山頂に立ちたいなら、国道477号の武平トンネル登山口から入る武平峠からの道になる。ただしこれは車で峠の高さまで上がってしまう道であり、麓から一座を登り上げるという感覚はほとんど残らない。短さと引き換えに何を手放すかは、選ぶ前に一度考えておいていい。

索道が先に山頂へ着く

御在所岳を他の鈴鹿の山から切り離しているのは、山上まで索道が通っていることだ。御在所ロープウエイは全長2,161m、高低差780m、片道約15分。営業は4月1日から11月30日が上り9時から17時(下り最終17時20分)、12月1日から3月31日が上り9時から16時(下り最終16時30分)。運賃は往復が中学生以上2,600円、4歳から小学生が1,300円で、片道はそれぞれ1,500円と750円。4歳未満は無料。山上には観光リフトのほか、展望テラスCOCORUや大きなブランコが置かれている。

つまりこの山では、三時間かけて登ってきた人と、十五分で上がってきた人が同じ地面に立つ。これを興ざめと受け取るか、この山らしさと捉えるかは人によるが、実用の面では無視できない利点がある。膝に不安のある人、下山の時間が読みにくい人、日の短い季節に取り付く人にとって、片道1,500円で下りを索道に預けられるという選択肢は明確に安全側へ働く。歩いて登り、ロープウエイで降りる。御在所岳において、これは後ろめたい選択ではない。ただし下りの最終時刻は冬季で16時30分、逆算して行動する必要がある。

樹氷の季節と、ひと月かけて降りてくる紅葉

季節でいえば、この山が最も遠くから人を呼ぶのは冬である。山上は冷え込みの強い時期に樹氷に覆われることがあり、冬季のロープウエイはその景色を目当てにした客を運ぶ。1959年にロープウエイとスキー場が相次いで開業して以来、この山の冬は登山の季節であると同時に観光の季節でもあった。標高1,212mという数字だけを見て軽く構えると足をすくわれる山で、冬の御在所岳は無雪期とは別の山になる。山上が樹氷に覆われうる環境だという事実を、麓の気温から切り離して考えておく必要がある。

紅葉の見頃は10月中旬から11月下旬にかけてとされる。ひと月以上にわたるのは、山上と山麓の湯の山温泉とで色づく時期がずれていくためで、上から下へ降りてくる紅葉を二度楽しめるとも言える。春はツツジが咲き、花を目当てにした登山者が登山口に集まる。装備は、無雪期であれば一般的な低山向けの登山靴とレインウェアで足りるが、岩を含む道を選ぶなら手を使うことを前提にグローブを加えておきたい。服装で判断が要るのは晩秋から初春にかけてで、麓が暖かい日でも山上は別の環境にある。上下の温度差を着るもので吸収できる構成にしておくことだ。

湯の山温泉から歩きはじめる

御在所岳 アクセスは、湯の山温泉を軸に考えると分かりやすい。近鉄湯の山温泉駅からロープウエイの乗り場まではバスで約10分。車なら菰野インターチェンジから約10分、四日市インターチェンジからは約30分で、ロープウエイの駐車場は300台、普通車1,000円とされている。登山口が温泉街の周辺に集まっているため、公共交通でも車でも同じ起点に降り立つことになる。

下山してそのまま湯に入れる山は、実のところそう多くない。御在所岳は、山と温泉街と索道がごく狭い範囲に同居しているという点で、鈴鹿のなかでも突出して足を運びやすい山だ。ただし行きやすさと易しさは別のものである。岩の道が閉じている今は特に、どの道を選ぶかで一日の中身が大きく変わる。登る前に、日付の入った最新の告知を確かめること。この山では、それが装備を揃えるのと同じ重さを持つ準備になる。

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